こんばんは。最近は通勤電車で記事の下書きをすることを覚えました。
今回は、そんな通勤途中に思っていた言葉についてのお話です。
高尾山の広告
通勤途中、京王が出している「高尾山」についての広告をよく見ます。
高尾山は東京の西の方にある山なのですが、京王としては都会に疲れた東京の民が京王線に乗って高尾山の自然に心を洗われることを願っているということでしょうか(私は行ったことがありませんが……)。
この広告、季節によってバージョンが異なり、今は春バージョン。「春の高尾山は花の都だ」となっています。
個人的には「ベストシーズンは、春夏秋冬です」はキャッチフレーズとして微妙なんじゃないかなと思ったりも……。何も言えてないし捻りもないし……ごほんごほん。
一年を通してたびたび目にしていたので、それぞれの季節の「高尾山は〇〇だ」をよく覚えています。
「春の高尾山は花の都だ」
「夏の高尾山は音楽だ」
「秋の高尾山は絵画だ」
「冬の高尾山は富士山だ」
皆さんはどれが一番好きでしょうか? 私は夏が好きです。なぜかは後述。
暗喩ですね
皆さんは中学生の頃に国語で習ったであろう「暗喩」を覚えていらっしゃいますでしょうか。
暗喩は比喩の一種で、「まるで〜のような」というような、比喩を明示する語を使わないで述べる比喩です。「彼は狼だ」「彼女は太陽だ」とかですね。
今回の「高尾山は○○だ」も暗喩に含まれると思います。
ここで、暗喩を比喩たらしめているのは何かを考えてみましょう。
「まるで〜のような」というような語を使う比喩(直喩もしくは明喩と呼ばれます)は、そういった語句自体が「これは比喩ですよ〜」と教えてくれます。一方で、「彼は狼だ」のような、最もシンプルな暗喩において、「これは比喩ですよ〜」と教えてくれるのは何なのでしょうか。
文の構造は「彼は人間だ」という比喩ではない文と変わりありません。よって、「彼は狼だ」を比喩たらしめているのは「彼≠狼」という(常識的に考えた場合の)事実であると言えます(もし、本当に「彼」が狼のことを擬人的に差しているのであれば、「彼は狼だ」も比喩ではなくなりますし)。
つまり、この暗喩は文の構造や含まれる語句ではなく、主述の組み合わせ及び「≠」によって比喩であると判断されるというわけです。
こう考えると、暗喩にも程度があると思えます。なぜかと言うと、主述を名詞の組み合わせとするならば、意味的に近い組み合わせもあれば遠い組み合わせもあるからです。
例えば、「彼は狼だ」「彼は椅子だ」「彼は徒競走だ」と並べてみましょう。「彼」を人間とすれば、「狼」「椅子」「徒競走」となるに連れて、人間という名詞からは意味が遠ざかっていきます(生物→無生物→非存在概念)。
それに伴って、暗喩が橋渡しを試みる名詞間の幅も広がっていきます。そして時に渡せないこともありますね(「彼は徒競走だ」はちょっと何言ってるかわかんないですし)。
しかし、この幅が狭すぎてもそんなに面白くないと私は思ってしまいます。その意味で、この幅がいい感じだな〜と思うのが、「高尾山」で言えば「音楽だ」なんじゃないかなと。おっ結構遠いけど上手いこと渡せてるやんけと。
高尾山で整理すれば、以下のような感じになるんじゃないでしょうか。これも程度問題です。
以下、感想でしかありませんが、
- 「富士山」は山同士なので近く、比喩の面白みがそんなに高まらない印象です。
- 「花の都」は「山」≠「都」なので比喩ですが、「花の都」という比喩は比較的一般的な印象で、「高尾山に花がたくさん咲いているんだな~」と起伏無く受け止められる可能性が高く、比喩の程度があまり高くない気がしました。
- 「絵画」は結構好きな方ですが、「高尾山の景色が素晴らしい」というような(割と普通な)着眼点から出発しているので、これも「なるほどね」くらいでした。
- 最後に「音楽」ですが、「富士山」「花の都」「絵画」に対して非存在概念に飛んでいつつも、比喩の橋渡しはうまくいって言いたいことはよくわかり、夏の高尾山に行って耳を澄ませてみるのも良さそう!という気持ちになりました。こういうのが、個人的に比喩ってイイなと思う瞬間です。
こんなことを考えながら広告などのコピーを眺めている人間もいるもんだな~というのが皆さんの感想となるかもしれません。笑
大抵の(言語表現を含む)モノゴトは程度で捉えられるかもしれない
今回は暗喩について考えましたが、これに限らずいろんな概念・集合はその中にグラデーションを捉えることができると思います。
例えば、「鳥」という種の集合を考えてみましょう。我々はスズメやカラスと比較して、ペンギンやダチョウやキーウィを同じくらい鳥だと思っているのでしょうか?(私は違う気がします)。
これは集合の「プロトタイプ的」な捉え方に関する話ですが、末尾に書くにはボリュームがあるので、また機会があれば別途書こうかと思います。
では、またお会いできると嬉しく思います。最後まで読んでいただきありがとうございました!