こんばんは。今回は、人類なら一度は考えたことがあるであろう「は」と「が」の話をちょっとだけしようと思います。ちょっとだけ、というのは、ちゃんとすると大変だからです（ごめんなさい！）。あと、ちゃんとできる自信もないからです。私はあまりにも物を知らない……。
今日の通勤電車でデジタルサイネージに流れていたニュースで、「阪神－ヤクルトは引き分け」という見出しがありました。ここで、「は」なんだな～って思ったのでこの話を書こうと思ったわけです。
「象は鼻が長い」
この話題になると必ず出る例文が「象は鼻が長い」です。この場合、「主語」は何でしょうか？
皆さんも中学生の頃に国語で習ったであろう国文法に則って考えれば、主語は「鼻が」になります。これは、「が」は格助詞であり、「は」は副助詞に分類されるというところを一定の根拠としています。でも、これは国文法を考えた人（今の中学校で習うのは橋本文法をベースにした文法なので、ここでは橋本進吉）の言うことを聞いているだけです。
人が決めた（言いようによれば恣意的な）分類に従っているだけでは面白くありません。「は」と「が」はどういう使い分けをしているか、ちょっと考えてみましょう。
ある日ある日
ある日ある日、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山へ芝刈りに。おばあさんは川へ洗濯に行きました。
皆さんも一度は聞いたことがあるでしょう、「桃太郎」の冒頭箇所です。細かいところは違うかもしれませんが、少なくとも、「おじいさんとおばあさんがいました」は「が」であり、「おじいさんは山へ芝刈りに。おばあさんは川へ洗濯に」は「は」じゃないでしょうか。試しに逆にしてみて、「おじいさんとおばあさんはいました」「おじいさんが山へ芝刈りに」とすると、母語話者なら「そうは言わない」という判断になるのではないでしょうか。
「は」と「が」の使い分けは、日本語学習者なら相当苦労するポイントであると思います。皆さんは、自分の「は」と「が」の使い分けを言語化することができますでしょうか……？
未知と既知
解答として、一つの側面を提示するとすれば「未知と既知」です。「は」は取り立ての助詞とも言われ、既知の主題に関して取り立てて示すというはたらきがあります。よって、既知のものと相性が良いです。「おじいさん」「おばあさん」は一度登場しているので、それを主題化して取り立てることができるというわけです。
ただ、その語そのものが既知でなければ「は」が使えないというわけでもありません。以下の例が参考になります。
交差点で事故がありました。幸い、けが人はいませんでした。
この場合、「けが人」という語は文章中で明示されているわけではありませんが、「事故」という語から連想可能です。よって、「事故」という語が想起させる概念群から取り立てることができます。
このような使い分けを、母語話者はいとも無意識的に行います。それって思えばかなり不思議なことじゃないですか！？ 言語、特に母語の習得は、そんな不思議を孕んでいるとも捉えられます。
「阪神－ヤクルトは引き分け」
話を阪神とヤクルトに戻しましょう。「阪神－ヤクルトは引き分け」は、以下のような内容を含んでいると思います。
昨日、阪神とヤクルトの試合がありました。勝敗は引き分けでした。
この場合、「が」と「は」は両方使われています（「勝敗」は、「試合」から連想されることで、既知としての権利を得ていいそうですね）。
一方で、デジタルサイネージのニュース見出しは、そのスペースの制限により、1文目を省いているとも捉えられます。つまり、「阪神とヤクルトの試合がありました」は、「既知」としているわけです（もしくは、最初から「～～は引き分け」とすることで、「阪神とヤクルトの試合」を既知のものとして扱っていることを明示している、とも言い得ます）。
ということで、私はなるほどな～と思った次第でございました。
おわりです
今回は「は」と「が」の話をちょっといたしました。これで「は」と「が」のすべてを言えたわけではありませんので誤解なきよう。「は」と「が」については今までも多くの人が考え、ものを論じてきましたし、私はそれらをしっかり読んだわけでもありません。
でも、大抵の言語学はこういうちょっとした不思議やそこから来る面白さに端緒がありますし、原動力があります。自分たちが何も考えずに使える「言葉」が、どうなっているかわからないって最高に不思議だし、おもしれーやつって思いませんか？私はそうやって言語学を専攻するに至りました。
皆さんも、言葉のことを知ることで、身の回りの言葉遣いに面白さを見出すこともできるかもしれません。それってきっと悪くない。ではでは。