京都大学 2024[三]解答例と解説

目次

総評

全体として、本文解釈がうまくできれば、各設問はそれほど難易度が高いというわけではありませんでした。ただ本文解釈はその分比較的難しめだった気がします。途中で作者のお父さんが夢の中に現れますが、そのシーンがかなりあっさりなので、お父さんが登場したことを読み取れず、それ以降のセリフは誰が言っているのかわからん……ということにもなりかねないお話でした。和歌も多めなので、まず逐語訳できることが何よりです。わからなかった文法事項や語句はしっかり頭に入れておきましょう~!

解答例と解説

問一

父と死別し、自分は思うようにならないまま、父の三十三回忌を迎えることになってしまったということ。

ちょっと難しかった気がします。「つれなし」は「平然としている」といった意味合いが主です。現代語で誰かを誘ってその人がつーんとしていたら「つれないなぁ」って言いますよね。そこから広げて「思うようにならない」というような訳語が充てられます。「つれなくぞめぐりあひぬる」を直訳すると「思うようにならないで巡り合ってしまった」となりますが、何に巡り合ったのかは下の句から推測します。下の句は「別れたままで、十年を三つと三つが余るまで(=三十三年)」となりますので、父親と死別して三十三年の年月を、思うようにならないまま巡ってきてしまったなぁ、という感じが全体感となります。

部分点

〈父と死別し〉、〈自分は思うようにならないまま〉、〈父の三十三回忌を迎えることになってしまった〉ということ。

「父と死別し」は下の句の「別れつつ」から取っています。別の言葉でも良いと思いますが、何がしかこの箇所に相当する訳語は含めた方が良いのではないかと思います。

それ以外は「つれなくぞ」「めぐりあひぬる」をそれぞれ言葉を補って説明している形です。「巡り合ってしまった」のは「父の三十三回忌」でも「父が死んでからの三十三年の年月が巡ってしまった」でも大丈夫な気がします。末尾に「ぬる」という完了の助動詞が含まれますので、「〜てしまった」とするとちょっと良くなる気がしました。

問二

今回の新後撰和歌集の選歌に、父親の和歌が選ばれなさらなかったのは悲しいことよ。私が出家していなければ、どうして入選を進言し申し上げないことがあろうか、いや進言しただろうに。

場面としては、後深草院の元女房であり、今は出家の身である筆者が、父親の墓参りに来ている胸中という感じです。直訳すると、「(それにしても、)今回の勅撰に漏れなさったことは悲しいことよ。私が俗世にあったとしたら、どうして申し入れないだろうか(、いや申し入れる)」となります。「漏る」ではなく「漏れ給ふ」と尊敬語がついているので、勅撰に漏れたのは自分ではなく父親であることが分かります。よって筆者は、父親の和歌が今回の勅撰和歌集に選ばれなかったことを悲しんでおり、自分が出家の身でなければ、入選を申し入れていただろうに、と悔やんでいる様子だと分かります。

部分点

〈今回の新後撰和歌集の選歌に〉、〈父親の和歌が選ばれなさらなかった〉のは〈悲しいことよ〉。〈私が出家していなければ〉、〈どうして入選を進言し申し上げないことがあろうか〉、〈いや進言しただろうに〉。

細かいところですが、「こそ」が入って係り結びで「悲しけれ」となっているので、やや詠嘆的な役の仕方(「〜ものだ」や「〜ことよ」)をした方が良いかと思いました。この「けれ」は助動詞の「けり」ではなくシク活用「悲し」の活用語尾ですが、「こそ」で語気を強めているので、詠嘆的に訳出してもやりすぎではないかな〜と。ただ普通に「悲しい」としていても大丈夫だと思います。

また、「世」はいったん「(出家していない)俗世」としましたが、「男女の関係」という意味もあるので、「私がまだ後深草院と深い関係(女房の身)にあったら」という書き方でも大丈夫だと思います。「あらましかば」は反実仮想なので、「もし〜だったら〜のに」という枠組みを意識しておきましょう。

「などか〜ざらむ」は反語で、「どうして〜しないだろうか、いやする」です。反実仮想と組み合わせて、「どうして申し入れないだろうか、いや申し入れるのに」となります。「申し入れる」だけでも謙譲語な感じはあるので大丈夫かと思いますが、今回は「入選を進言し申し上げる」とやや丁寧めに訳してみました。

問三

和歌の世界において、具平親王から続く潮流が空しく絶えてしまうであろう今、私も海に捨てられた海人の捨て船のように見捨てられる身であろう。

和歌って情報密度が高いからしんどい(難しい)んですよね〜。傍線部に限定せず、和歌全体を直訳すると、「古くなってしまった名も口惜しく残念だ。和歌の浦海において、身はどうにでもなってしまう、海人の捨て船のように。」みたいな感じでしょうか。「古くなってしまった名」は、直前でも触れられているように、親王家の和歌の血筋(名字に連なる作風の潮流)です。勅撰からも外れ、この潮流が古くなっていってしまうのが口惜しいという意味合いです。そんな中、自分も和歌の入り江に浮かぶ海人の捨て船のように、身をやつしていくのだろう……といった内容になっています。

部分点

〈和歌の世界において〉、〈具平親王から続く潮流が空しく絶えてしまうであろう今〉、〈私も海に捨てられた海人の捨て船のように〉〈見捨てられる身であろう〉。

「具平親王から続く潮流が空しく絶えてしまうであろう今」は、傍線部少し前の「竹園八代の古風、空しく絶えなむずるにや」から取っています。親王家の血筋から八代目にあたる雅忠の娘である筆者も、その潮流の中にある身ではありますが、その作風が古くなっていってしまっている今となっては、和歌の世界において自分は見捨てられていく身なのだ、という訳出として、補って入れています。傍線部内の直接の訳出箇所ではないので、入ってなくてもまぁ〜耐えではあると思いますが、これがないと本当に直訳でしかない気がしました。

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問四

祖父である久我通光も、外祖父である四条隆親も勅撰集に入選しており、どちらの血筋を鑑みても、作者は和歌の世界で見捨てられるはずの身ではないということ。

私も初読では読み取りきれなかったのですが、傍線部(3)の後、「帰りたりし夜、昔ながらの姿、我もいにしへの心地にて相向かひて、この恨みを述ぶるに」は、「帰った夜、父(雅忠)が昔と同じ姿で(夢の中に)現れ、私も昔の気持ちで向かい合って、この恨みを述べたところ」という感じですね。急展開。「昔ながらの姿にて現れ」とか書いてくれたら分かりやすいのに。

さておき、傍線部はお父さんのセリフです。直訳すると「どちらにしても、捨てられるはずの身ではない」ですね。「〜につけても」は「それにつけてもおやつはカール」の「つけても」です。「それにつけても」=「それにしても」なら「いづ方につけても」=「どちらにしても」ですね。

「どちらにしても」の「どちら」が何かというと、お父さんが解説してくれているように、筆者から見ての祖父(久我通光)も外祖父(母方の祖父=四条隆親)も、勅撰集に所収の和歌を詠んでおり、父方も母方も、どちらにしても優れた和歌の血筋を引いており、見捨てられるはずのない身である、という応援メッセージですね。

余談ですが、母方の祖父を「外祖父」という言うのはあんまり知りませんでした。でも多分そうだろうと思って書いたら合ってました。笑

部分点

〈祖父である久我通光も、外祖父である四条隆親も勅撰集に入選しており〉、〈どちらの血筋を鑑みても〉、〈作者は和歌の世界で見捨てられるはずの身ではない〉ということ。

「鑑みても」は「つけても」をちょっとかっこよくしてるだけです。「鑑みる」、私はよく使います。笑

また、「作者は和歌の世界で見捨てられるはずの身ではない」の「和歌の世界で」は、やや補足的ではありますが、あった方が良いのではないかな〜と思います。「見捨てられる」のがどういった文脈でなのかを示しているため。

問五

夢に立ち現れた父親に、筆者の優れた血筋と具平親王から続く和歌の潮流は絶えていないのだから、詠んだ和歌をただ書き留めよ、優れた歌は人々に分け隔てなく評価される世の中だ、と鼓舞されたから。

傍線部自体を直訳すると、「これ以降、さらにこの道(和歌の道)に取り組む心も深くなっていき」という感じです。和歌に関して、作者はやる気を出したってことですね。

私の解答例としては和歌の少し前から取っており、お父さんが「具平親王から今になっては、家筋は長くなったといえども、和歌の潮流は絶えていない」と述べて立ち、和歌を詠んだという文脈も含めています。設問指示における「直前の和歌」も夢の中のお父さんの和歌で、これも直訳すると、「やはりただ書き留めてみなさい、塩をとる藻草をかき集めるように。人は分け隔てなく情けがある世の中において。」となります。以上踏まえ、「和歌の血筋は絶えていないのだから、とりあえずお前も書き留めていきなさい、優れた歌は分け隔てなく認められる情けがある世の中だ」と夢の中でお父さんに応援されたことで、筆者はやる気を出したとわかります。

部分点

〈夢に立ち現れた父親に、〈筆者の優れた血筋と具平親王から続く和歌の潮流は絶えていない〉のだから、〈詠んだ和歌をただ書き留めよ〉、〈優れた歌は人々に分け隔てなく評価される世の中だ〉、と鼓舞された〉から。

細々と難しいところがありますね。まず、お父さんが夢枕に立ったというところを読み取れていないと全体が通りません。また、「筆者の優れた血筋と具平親王から続く和歌の潮流は絶えていない」としていますが、これは「家久しくなるといへども」も含めているため、「優れた血筋」も入れています。でも「和歌の潮流」だけでも良いかとは思います。

和歌の中の「人をもわかず情けある世に」の解釈もなかなか難しいと感じました。「分け隔てなく、情趣を理解する心がある世の中において」のような感じで読めればいいのですが、そう簡単ではないわなぁとも思います。これだから和歌は難しいんだ。

読解後のつれづれ

全体的に和歌にかかる設問が多かったですね。私もいきなりお父さんが夢枕に現れたところは初読では意味不明でした。でもまぁ誰かが夢枕に立つのはよくあるシチュエーションな気はしますので、古文では「あるある」なことなんだなあとストックしておけると、いつか読解に役立つ時が来るかもしれません。笑

余談ですが、お父さんが和歌を詠んで去って行き、作者が目を覚ますシーンはなかなか描写が凝っています。「うちながめて立ち退きぬと思ひて、うちおどろきしかば、空しき面影は袖の涙に残り、言の葉はなほ夢の枕に留まる((父が)少し目線を外して行ってしまったと思って、ハッと目覚めたところ、わずかに残る父の面影は袖の涙がその証、父の言葉はまだ夢の枕に残っているようだった)」といった具合です。マンガのワンシーンみたいじゃないですか?

平家物語が有名ですが、古文のリズムみたいなのもありますよね。「空しき面影は袖の涙に残り、言の葉はなほ夢の枕に留まる」もなかなか良いフレーズだなあと思って読んでおりました。

とまぁそんなところで。今回もお疲れ様でした!

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