センター試験(共通テスト)国語 2019本試[1(評論)]解説

目次

解説

選択肢の吟味において、「×・△・?」を選択肢の該当箇所に付けていきます。×は「これはちゃうやろ」、△は「ちゃうかもしれん」、?は「びっみょ〜」って感じです。

問1

(ア)丹念 / ①一旦 ②鍛錬 ③丹精 ④担架 ⑤破綻

(イ)漠然 / ①麦芽 ②砂漠 ③呪縛 ④爆笑 ⑤幕末

(ウ)響く / ①供給 ②逆境 ③協定 ④影響 ⑤歩道橋

(エ)頻出 / ①品質 ②海浜 ③頻繁 ④来賓 ⑤貧弱

(オ)圧倒 / ①逃避 ②傾倒 ③唐突 ④周到 ⑤糖分

問2 正答④

傍線部Aに「その意味で」という指示語が含まれていますので、どういう意味でなのか考えれば良さそうですね。そのために必要な第四段落の要所は「まったく違った文化的背景の中で、まったく違った言語によって書かれた文学作品を、別の言葉に訳して、それがまがりなりにも理解されるということじたい、よく考えてみると、何か奇跡のようなこと」「心の中でどこか奇跡を信じているような楽天家でなければ、奇跡を目指すことなどできない」などでしょう。この点を踏まえれば難しくない設問です。

選択肢の吟味

①「いつかは誰でも優れた翻訳家になれると信じている」が×です。そういう話をしているのではありません。

②「たいていのものはたやすく翻訳できると信じている」が△です。本文全体を通して、筆者は翻訳を簡単な営為だと捉えていません。

③「質を問わなければおおよそのところは翻訳できると信じている」が△です。やや近いですが、翻訳の可能・不可能性に留まり、「文化的差異を超えて理解され得る」という「奇跡」について触れられていません。

④正答です。「奇跡」の内容を捉えられています。

⑤「原語で読んだとしても翻訳で読んだとしても、ほぼ同じ読書体験が可能だと信じている」が△です。「まがりなりにも理解される」のは「ほぼ同じ読書体験」とは言えませんし、第三段落でも翻訳された後と原典での読書体験の非同一性について投げかけています。

問3 正答②

傍線部Bに含まれる「これ」という指示語を明瞭にしておきましょう。「これ」とは端的に言えば「言い換え」です。一般的な理解では、この「言い換え」までを含めて「翻訳」と言うことの方が多いと思いますが、筆者はもう少し「翻訳」を細かく捉えていそうですね。「言い換え」は、ある程度の意味のまとまりを逐一訳していくのではなく、まるっとそのまとまりに相当する(翻訳先の言語において「自然な」)フレーズや語に置き換える手法、といった感じでしょう。これは、まるっと置き換えるので、細かく訳することを避けることができます。筆者はこの点を捉えていそうですね。

選択肢の吟味

①「翻訳しにくい表現に対しては、日本語のあいまいさを利用して意味をはっきり確定せずに訳すのが望ましい」が△です。第九段落に「あまりはっきりと言わないのがやはり日本語的」とはありますが、「はっきり確定せずに訳すのが望ましい」とは述べられていません。

②正答です。が、「よりふさわしい訳文を探し求めることの困難に向き合わずに済ませることになる」には?をつけていました。「言い換え」を使うと「逐一訳さなくて済む」は言えると思うんですが、「よりふさわしい訳文を探さなくてよくなる」とはちょっと違うのかな?と。ただ他の選択肢よりは筆者の述べている内容に近いと思います。耐えですかね。

③「直訳に注を付す方法や」が△です。「直訳に注を付す方法」は、「言い換え」とは区切られて述べられています。また、「文化の違いにかかわらず忠実に原文を再現するという翻訳の理想」も△です。「忠実に原文を再現する」ことが「翻訳の理想」だとは述べられていません。

④「不自然な表現だとしてもそのまま直訳的に翻訳しておくことで、それが翻訳不可能であることを伝える効果を生む」が△です。言っていることは多分正しいのですが、「言い換え」を対象とした言及になっていません。

⑤「文学作品の名訳や先輩翻訳者の成功例などを参考にすることで、こなれた翻訳が可能になることもある」が△です。そういう話をしているのではありません。

問4 正答②

「ぼくはあの娘にぞっこんなんだ」と「私は彼女を深く愛しているのである」は、どちらが「正しい」と言えるのか、もしくは言えないのか、といったような話ですね。

こなれた訳になっているので「ぞっこん」の方が正しいのでしょうか? それとも、原文に忠実であろうので、「私は彼女を深く~」の方が正しいのでしょうか。こうなると、「正確な翻訳」「正しい」とはなんぞや、という話を考えないと、どっちが正しいとも言えません。でもそれってあまり一般的に求められてる話でもないよね、という感じで筆者はまとめています。この点を、余計なことを言わずに済ましている選択肢が正答となります。

選択肢の吟味

①「意味的にも構造的にも一対一で対応すべきという学問的な原則」が△です。そんな原則が絶対的にあるんだったら、筆者の「どっちが正しいのか」というような悩みはきっと生じません。

②正答です。「根本に関わるよね」「難しいよね」しか言っておらず、つらつら書いている割にあまり何も言っていないのがとても良いですね。

③「翻訳の正しさとは、(中略)いかに自然な日本語に見せることができるかという翻訳家の技術の問題に関わる」が△です。どっちが正しいのかわからん、という話なので、「正しさは自然に訳せるかに関わる」は良くないです。

④「自然な日本語に訳すことと原文の意味や構造を崩すことなく訳すことを両立させ」が△です。それが須らくできたら筆者も苦労しないんだってば。

⑤「正確であるとはどういうことかは学問的に定義して決定していくべきである」が△です。筆者は「正しさを決めるなら哲学になっちゃう」とは言っていますが、「言語哲学的に考えて正しさを決めるべき」とは言っていません。微妙なこの違い。

問5 正答②

本文の趣旨と異なる発言を一つ選ぶので、正答である②以外はちゃんとしたことを言っていることになります。選択肢の吟味で確認しておきます。

選択肢の吟味

①ちゃんとしたことを言っています。

②「時代や文化の違いをなるべく意識させずに読者に理解させることが翻訳の仕事の基本」が△です。「ぞっこん」と「私は彼女を〜」の話にも関わりますが、あえて原文の構造に忠実に訳したり、「日本語ではそうは言わない」表現を使ったりすることで、「原文性(から来る異文化感)」を残したまま訳すという選択肢も、翻訳家には残されています。生徒Bの当該発言は、この方向性を否定してしまっており、それでは筆者の悩みも無下になってしまいます。

③〜⑤ちゃんとしたことを言っています。

問6(i) 正答④

ちょっと難しかったです。これも正答が「適当でない」言及なので気をつけましょう。

選択肢の吟味

①〜③表現に対する正しい言及です。

④「過去の自分が考えたことを回想し」を△としました。「あの時の少年」が過去の筆者であることは確かにそうなのですが、「過去の自分はどう思うかな〜」と思っているだけで、「過去の自分が考えたこと」を思い出し(回想し)ているわけではないという点、びみょ〜に違うのはお分かりでしょうか。

問6(ii) 正答②

本文全体の構成についての設問です。設問を解いているときはあんまり構成のこととか考えながら読んでないと思いますので、本文の各まとまりの理解をふわっと思い返しながら検証していきましょう。

選択肢の吟味

①「支持する立場を一方に確定させている」が×です。楽天的な翻訳観と、悲観的な翻訳観の両方が提示されていますが、筆者がどちらかの立場を取るという態度は表明していません。

②正答です。特段問題はありません。

③「筆者が現在の職業に就くことになったきっかけを紹介し」が△です。過去の体験は、確かに現在の筆者の職業(翻訳家)に関わるものですが、それが「きっかけ」であったとは述べられていません。

④「筆者の考える正しさを示しながらも」が△です。筆者は結局「何が正しいのか」に関する態度を示していません。

読解後のつれづれ

「翻訳」に関して典型的にぶつかりそうな問題を平易に書き連ねており、かなり読みやすかった気がします。そうだよな〜って思いながら読んでました。笑

「自然に訳す」「原文に忠実に訳す」は、例えば皆さんが英語の訳出を行う時にも考えることなのかもしれません。小説の翻訳はそのうえで、「不自然な感じもするけどあえて原文に忠実に訳す」とかいう選択肢も出てくるということですね。

翻訳に限らず、言葉遣いには「(諸説あるかもだが)一周回ってあえてそう言う」という判断もありましょう。私はレジでポイントカードありますか?と聞かれた時、持っていない場合は「大丈夫です」と言うことにしていますが、それは「大丈夫」の本来の意味にこだわるよりも、当該場面のコミュニケーションがスムーズに進むことを優先したらいいやと思うからです。

そのような話者の判断があるかもしれない(捉えようによっては違和感のある)言葉遣いを、安易に揶揄したりしないでおきたいものです。

余談がやや長くなりましたが、この辺で。今回もお疲れ様でした!

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