大学入試センター試験 国語2019本試[3(古文)]解説

目次

解説

選択肢の吟味において、「×・△・?」を選択肢の該当箇所に付けていきます。×は「これはちゃうやろ」、△は「ちゃうかもしれん」、?は「びっみょ〜」って感じです。

問1

(ア) 正答②

含まれている各語彙を的確に訳出できていれば大丈夫です。「しづ心なく」は「心が静まることがなく(静まる心を持ち合わせておらず)」、「思ひ奉り」は謙譲語が含まれているので「お〜する、〜申し上げる」がないといけません。「あさまし」は「驚きあきれる」が定訳です。文脈的にというよりは、これだけ定訳が揃っているので②をズバッと選んで良い設問かと思います。

(イ) 正答④

こちらも合わせたい設問です。「いかにして」の訳出としてまぁ相応しいのは②どのようにして、③どういうわけで、④なんとかして くらいかと思いますが、今回は文末(「〜と思ひめぐらし」の「と」より前)に願望の終助詞「ばや」がありますので、「なんとかして・どうにかして(〜したい・しよう)」の働きになります。「いかに」は、howの文脈を持ちますが、願望や意思の助詞・助動詞に係る場合は「なんとかして」と訳すことは必ず覚えておきましょう!

(ウ) 正答⑤

「この人」は玉水のことで、「御おぼえ」は「お気遣い」とかになります。姫君は、玉水が犬を恐れるので、住まいの中に犬を入れないようにするといったような特別扱いをするほどに玉水に心をかけていました。これを踏まえた周りの人の気持ちとして、「玉水に対する(姫君の)お気遣い(=ご寵愛)の程度は、なんとも羨ましいことよ」とかですね。なお、玉水が犬を恐れるのは、普通に自分が狐だからかと思います。天敵とまでは言わずとも、狐などの獣を追っ払うのに犬は強そうです。

問2 正答④

一つずつ見ていきます。

aは、「奉る」なのでほとんどの場合謙譲語(目的語への敬意)です。また、ちょっと戸惑いますが品詞を区切ると「もしや/見/奉る/と/かの/花園/に/〜」です(「とか/の」ではありません)。概ねの訳は「もしかすると見申し上げるのでは、と思って、あの花園に〜」となり、姫君を見申し上げ(られ)るのではないか、と狐が思ってあの花園に、、、という文脈のため、敬意の対象は(筆者もしくは狐→)姫君です(地の文ですが、狐の心中語とも読めるので筆者もしくは狐としました)。

bの「候ふ」は概ね丁寧語(「あります・ございます」)です。丁寧語は、発話者の目の前にいる相手への敬意ですので、ここでは発話者である主の女房→娘(=狐)の敬意となります。蛇足ですが、地の文に丁寧語がある場合は筆者から読者への敬意です(あんまり設問になることはない気がします)。

c「侍り」は丁寧語「です・ます・ございます」か謙譲語「お側にいる・お控えする」であることが多く、今回は前者です。「御宮仕え申したく侍るなり」で「宮仕え申し上げたくございます」みたいな感じでしょうか。丁寧語のため、発話者の娘(=狐)→主の女房という敬意です。

dの「参らす」は「参上させる」が核となる訳ですが、そこから「(偉い人の元に人・モノを)参上させる→差し上げる」と覚えることができます。「(玉水が姫君に)食べ物を差し上げ」となり、謙譲語なので敬意の対象は目的語、つまり(筆者→)姫君です。

よって正答④です。

選択肢の吟味

上記解説に代えさせていただきます。

問3 正答⑤

ちょっと難しかったです。前後の文脈をしっかり取ってやや厳密に考える必要があったかと思います。

傍線部Aは、姫君に思いを寄せる狐が自分の巣穴へと帰って、自らの姿を見ながら思いを巡らせる心中です。「美しき人を見そめ奉りて、およばぬ恋路に身をやつし、(美しい人に惚れてしまって、身の程でない恋路に我が身をなげうって、)」から傍線部に繋がります。

傍線部の直訳は「無意味に消え失せてしまうようなことは残念だなぁ」とかになります。これだけで言えば③と⑤が残りますが、上記の前文脈から絞ることができそうです。

選択肢の吟味

①「罪の報いを受けて死んでしまうことを無念に思う」が×です。「いたづらに(無意味に)」に合いませんし、狐が直近の因果で死んでしまう気配はあまりしません。

②「姫君に何度も近づいたことで疎まれ、はやく消えてしまいたい」が△です。傍線部より前に、姫君に疎まれたという内容はありません。

③後の文脈(うち案じ、さめざめとうち泣きて〜)には合っていますし、その後の全体の狐の行動(娘に化けて姫君への間接的な接近を試みる)にもズレはありません。ただ、直前の「およばぬ恋路に身をやつし、(身の程でない恋路に我が身をなげうって、)」からの繋がりがちょ〜っとだけ悪いかと。。。「恋路に身をなげうって、姫君に想いを伝えないまま」が絶妙に繋がらないかな〜という感じです。いかがでしょうか。

④「人間に化けるという悪行を犯して」が×です。この時点ではまだやってませんし、人間に化けることが必ずしも悪行であると書かれているわけでもありません。

⑤正答です。③に比較して「及ばぬ恋路に身をやつし」に相当する部分も選択肢に含まれているので、繋がりに妥当性が高い印象です。後の文脈との繋がりは③もそれなりに妥当なので、前の文脈との齟齬がより無いという意味で正答かと思います。

問4 正答③

娘(=狐)の元来の目的は、なんやかんやで姫君に近づくことでした。ただ、シンプルにイケメン男性に化けて姫君に会いに行って、もしうまく行って(結婚するなどして)しまうと、姫君の人生・立場をめちゃくちゃにしてしまう可能性があります(「我、姫君に逢ひ奉らば、必ず御身いたづらになり給ふべし」)。そこで(なぜそういう判断になったかはわかりませんが)美しい女子に化けて、女子を欲しがっていた民家に入り、自分の希望を叶えるチャンスを伺っていたということですね。傍線部後の娘のセリフ(「ゆめゆめさやうのことは〜」)の内容から判断することができます。

選択肢の吟味

①「意中の人との縁談を提案してくれるように養母を誘導したい」が×です。養母の方は「意中の人などがいるのなら隠さず教えてほしい」と言っていますが、これも男性を意図したものであり、姫君に近づくという狐の目的に適うものではありません。

②「人前で見せびらかしたいと思っている養母に対して、逆らえない」が×です。傍線部B前の「いかにしてさもあらむ人に見せ奉らばや」は「どうにかして然るべき身分の人のお嫁に差し上げたい(結婚させたい)」という意味なので、「見せびらかしたい」ではありません。

③正答です。娘(=狐)は養母の縁談の世話にも喜ぶ気配を見せなかったため、養母は「気になってる人がいるのか?」と聞き、娘は「そうではなくて美しい姫君のところで宮仕えしたいのです……」という希望を伝えることができています。まさに狐の計画通りという感じですね。

④「疎外感や他に頼る者のいない心細さを、はっきりと養母に伝えたい」が△です。確かに「憂き身のめざましくおぼえてかく結ぼれたるさまなれば」の箇所では自分の境遇を嘆いているようにも見えますが、狐の本来の目的に適う行動(意図)は③の方がより適切かと思います。

⑤「罪悪感によって、養母の善意を素直に受け入れられない」が△です。娘(=狐)がそのような罪悪感を抱いていそうな記述はあまりありません。

問5 正答①

本文全体に関わる正誤の判断となります。断定箇所が定まっているわけでもないので、ストーリーの進行に照らして間違いのない選択肢を選ぶより他ないかと思います。

狐は、見惚れた姫君に近づきたいと思いつつ、獣の自分が人間に化けて姫君と関係を持つと、姫君の立場を悪くしてしまうと心配しました。そこで娘に化けて民家に潜り込み、そこから宮仕えのツテを捕まえ、果たして姫君の側に仕え、寵愛を受けるという流れです。

選択肢の吟味

①正答です。狐が当初からどこまで上手くいくと思っていたかはわかりませんが、結果的に上手いこといってます。

②全体的に誤りです。狐の行動は、縁談を通して姫君や高柳家との縁を作ろうとしていたわけではありません。

③「そばに仕えられるようになってから思いの丈を打ち明けようと考えた」が△です。獣である自分が姫君と関係を持つのは良くないと思っていたことは明らかなので、狐が娘に化けた時点で「思いの丈を打ち明けよう」としていたかは微妙です。

④「望まない縁談を迫られている姫君を守るためには」が△です。姫君が望まない縁談を迫られているといった話はあんまり書かれていないと思います。

⑤「高柳家の姫君が自分と年近い侍女を探しているという噂を聞きつけ」が△です。そのような記述はありません。結果的には思惑通り進んでいますが、狐の行動に当初から見通しが付いていたとは言えません。

問6 正答②

玉水(=娘=狐)と姫君の関係なので、課題文のうち終盤の方から判断していきます。傍線部が引かれている設問ではないため、これも誤っている(もしくは本文に記載がない)内容が入っているものを外していく形で絞っていく設問になります。

選択肢の吟味

①「歌を詠み合うのに熱中するあまりに、周囲の不満に気づけない玉水の姿」が?です。確かに姫君から玉水への寵愛の深さは、周囲の人が目くじらを立てるようなものでしたが、玉水がそれに気付けていない様子を殊更に書いている記述はありません。

②正答です。ほととぎすを見た姫君が詠み出した上の句に、玉水は「深き思い」と付けた後に「わが心の内」とぼそぼそと付言し、何やら自分の中に「深い思い」があることを匂わせます。それは紛うことなく姫君への思いなのですが、姫君はそうとも知らず、誰やら気になっている男性がいるのか、それとも恨みでもあるのかと知りたがります。天然で心中ぐちゃぐちゃにしてくるタイプのおちゃめ姫様というわけです。

③「自らの恋心を隠しながら下の句を付け、姫君の恋を応援しようとする」が?です。この上の句の当該部分だけでは、姫君に意中の男性がいるとまでは読み取りきれません。また、下の句も自分の気持ちについて付言しており、姫君を応援しようという心情を読み取ることは難しいかと思います。

④「冷たい対応をせざるを得ない玉水の姿」が△です。玉水の心の内を知りたがる姫君の言葉に対する玉水の反応はあまり書かれておらず、冷たい対応だとは言えません。また、姫君の言葉もしつこいと言えるように描かれてはいない気がします。

⑤「苦しい立場を理解してくれない姫君に、胸の内を歌で訴えている玉水」が△です。玉水が周囲からの嫉妬をどのように感じていたかは不明ですし、「わが心の内」は本文全体を踏まえて姫君への恋心を指していると捉える方が自然です。

読解後のつれづれ

なんか昔から人って「叶わない恋」みたいな話好きですね。課題文として引かれている箇所だけでも、全体的にまとまりのあるお話になっていました。

狐の思惑が上手いこといく進行のご都合主義は多めに見るとして、後半では姫君のお茶目さというかピュアな感じが垣間見えますね。侍女の恋路に興味があるお年頃、月が綺麗な夜に御簾の近くで恋バナしたがるのは、今でもわかるエモさなのかもしれません。

問題を解いている時はそんな余裕もないと思いますが、古典もそういう今に通じるエモさあるよな〜と思いました。そんなところでお疲れ様でした!

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