京都大学 国語2019[五]解答例と解説

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総評

理系設問として短めの本文、解答も短めです。本文も難解ではないので、サクッと得点したい大問でした。和歌の縁語や意訳が必要なところなどは多少出来不出来が分かれるところかと思いますが、まぁそんなにできていなくても大丈夫かと思います。どちらかと言うと「なむ」の扱いや「もがな」の訳出など、ちゃんと古典文法をやっていたら大丈夫なところをちゃんと取れているかの方が、理系の皆さんにとっては大切かなと。。。皆さんはいかがでしたでしょうか。

解答例と解説

問一

私に少しでも情けをかけてくださるのなら、この世に立ち戻ってきて、露のように私と共にこの世から消えてください

「つゆ」は「つゆ〜打消」で「少しも(まったく)〜ない」ですが、今回は打ち消しがなさそうなので「少しでも」のように訳しました。「あはれをかけば」の「かけ」は未然形なので、順接仮定条件で「〜ならば」です。「立ち帰り」は亡くなっている母親への呼びかけなので、「この世に立ち戻り」と補いました。「共にを消えよ」の「を」は注釈より強意の間投助詞のため、明示的に訳す必要はないかと判断しました。「消ゆ」は「つゆ(露)」との縁語にあたるため、こちらでも引っ張ってきて訳出しています。ここはちょっと理系の人にとっては厄介なところなので、できてないとやべぇって感じでもないと思います。

部分点

〈私に〈少しでも〉情けをかけてくださるのなら〉、〈この世に立ち戻ってきて〉、〈露のように〉〈私と共にこの世から消えてください〉

ところどころ補っているところもあります。「あはれをかけば」の主語は姫君から見ての母親であり、敬意が向いていて然るべきなので、「(母上が)情けをかけてくださるのなら」と補いました。「共にを消えよ」も、「私と共にこの世から」と適宜補っています。これは、一度作ってみた解答を自分で読みなおして、あった方がいいかという判断をしたうえで、本文内容から逸脱しない範囲で補うという感覚です。

問二

少将と結婚してもしなくても、女親のいない自分の身の上に良いことが起こることはきっとないだろうということ。

「とありともかかりとも」が難しめです。めちゃ端的に言えば「とにありかくあり(とにかく)どうあっても」となります。

ここで焦点になるのは姫君の心中(「心のうち」)の内容です。間に継母の指示が挟まりますが、そこからは「わづらひ」以上に心中を伺える内容はありません。そこで、さらにその前のあこきの台詞で(あこきの恋人である帯刀の主人の)少将が姫君と結婚したがっていることを伝えているところから、「どうあっても」の内容を考えます。少将という階級の男性と結婚できれば、そこそこ立場を得ることもできそうなものですが、当時は女親家の力が強いのが基本的な文化です(摂関政治も母方の祖父になるのが大事でしたよね)。しかし現在の姫君は女親がおらず、自分が少将と結婚したとしても、バックアップしてくれる親がいないことになります。よって、少将と結婚できてもできなくても、姫君の身に幸福が保証される見込みはほとんどありません。ここまでで「とありともかかりとも」です。

「よきことはありなむや」は「や」が反語だという点がとれていれば最低限よいかと思います。「ありなむや」の「なむ」は連用形に続いているので完了・強意の助動詞「ぬ」の未然形+推量・意思の助動詞「む」です。推量の場合は強意+推量と取り、「きっと〜だろう」とするのが定石のため、今回もそういう感じで訳しています。

部分点

〈少将と結婚してもしなくても〉、〈女親のいない自分の身の上に〉〈良いことが起こることは〉〈きっとないだろう〉ということ。

「女親のいない自分の身の上に」は傍線部の後から補っています。「よきことはありなむや」と「幸ひなき身と知りて」は同じ感じの意味合いのため、混ぜて盛り込んでいる形です。

問三

出家して尼僧になったとしても、継母のこの家の中を離れることはできないので、出家ではなくただ死んでしまうような方法があって欲しいものだと姫君はお思いになる

ところどころポイントとなるところはありますが、基本的には順々に訳していけば良さげです。少し意訳が必要になってくるのは「殿の内」くらいでしょうか。

「殿の内離るまじければ」の「殿の内」は、宮中かな〜と最初思っていましたが、特段姫君が宮中にいるというわけではないかと見えますので、姫君が今いるであろう「継母の家」としました。ここの「まじ」は不可能で訳しています。

「ただ消え失せなむわざ」は「シンプルに死ぬ(ような)方法」という感じです。「なむ」は先ほどと同じく完了・強意の助動詞「ぬ」+助動詞の「む」かと思いますが、「む」が体言に接続するとき、多くの場合は婉曲(「〜ような」)となりますので、今回もそうしました。「ぬ」はどちらでもいいと思いますが、完了っぽい意味も出して「てしまう」をつけています。

「もがな」は願望、細かいですが「思ほす」であり「思ふ」ではないので、ちゃんと尊敬で訳しましょう。

部分点

〈出家して尼僧になったとしても〉、〈継母のこの家の中を〉〈離れることはできないので〉、出家ではなく〈ただ死んでしまうような方法が〉〈あって欲しいものだ〉と〈姫君はお思いになる〉

「出家して」は「尼僧になる」に多少含意されるので、なくてもいいっちゃあいいです。「出家ではなく」も同様なので、こちらは部分点内容から外しています。でも「ただ死んでしまう」の意味合いを明瞭にする効果はあると思うので、解答としてはまぁ入れても良いんじゃないかな〜と思いました。

読解後のつれづれ

最初から最後までかなしいかなしいという感じでした。シンデレラにも近いと思いますが、なんで継母は意地悪というステレオタイプがあるんでしょう。(当時交流があると思えない)違う文化圏で同じような構図が描かれているのは不思議なもんですが、なんかこういう話ほかにもあったな〜という記憶があります。大学生の頃に英語の授業で読んだ論文だったか……。

まぁ何とかなりましょう。今回はこの辺で、お疲れ様でした!

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