京都大学 国語2020[五]解答例と解説

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総評

本文も短めで内容も込み入っておらず、設問もカンタンめです。ぜひ須らく点が取れるとよいですね。

理系の人は古文に苦手意識がある人も多いと思いますが、今回のように比較的点が取りやすい問題が出た際には、差を生むのは基本的な文法表現を齟齬なく取れるかになります。最低限頑張っておきましょうね……。

「せめて」という言葉は、結構使いたいタイミングがいっぱいあるのに、昔の人はこの言葉がなくても大丈夫だったんだろうか?という話です。

解答例と解説

問一

どうして過去の人は、今俗語に言うのと同じ「せめて」という言葉がなくても不便に思わなかったのか

「この詞」が「せめて」であることはすぐにわかるかと思いますが、「いま俗言にいふに同じきせめて」というように、より細かく言及されている箇所がありますので、こちらをとる方が良さそうです。「今の俗語で言うのと同じ(意味での)せめて」です。この言葉は、「事柄によっては言いたいと思えることが度々ある言葉であるのに」に傍線部は続きます。

「いかでか」は「どうして〜(だろう)か」、「いにしへ人」は「昔の人」、「事もかかれざる」はちょっと難しいですが、「事(を)欠かない」です。「欠く」を漢字で書いてくれたらいいのに……。「〜に事欠かない」は「〜に困らない」なので、「不便に思わない」としています。

部分点

〈どうして〈過去の人は〉、〈今俗語に言うのと同じ〉〈「せめて」という言葉〉がなくても〈不便に思わなかった〉のか〉

筆者がこの文章を書いているのは江戸時代ですが、今回は「現代語訳せよ」なので「今」はそのままで大丈夫です。「どういうことか説明せよ」とかなら、説明するのは私たちなので、「当時の俗語で言う」とかにする必要がありそうですね。これは英語の直接話法か間接話法かみたいな感覚に近いと思います。

問二

恋人の顔が見たいというのが本来の希望であるが、それは叶わないので、せめて恋人の家だけでもいつも見ていたいものの、それもまた叶わないという気持ち。

第一段落最終文に含まれる内容(「その故は、」以降)が該当箇所のため、そこを訳せればOKです。

「妹」は男性が恋しく思う人、「本意」は「本来の意図・気持ち」、「継ぎて」は「いつも」だそうです。すみませんが「継ぎて」は知らなかったんですが、皆さん知ってるんでしょうか……。

一つ論点としては、今回の私の解答例末尾に入れている「それもまた叶わない」というのを入れるかどうかです。しょ〜じき入れなくてもいいかなとも思うくらいなんですが、今回の傍線部の末尾は「見ましを」となっており、「を」まで含まれているので、そこに含まれている含意みたいな意味合いで「それもまた叶わない」を入れてみました。「見たいんだけれども……(無理なんだよね)」の(無理なんだよね)を入れたということです。これはまぁ判断が分かれるかなと思いつつ。皆さんはいかが思われますでしょうか。

部分点

〈恋人の顔が見たい〉というのが〈本来の希望である〉が、〈それは叶わないので〉、〈せめて恋人の家だけでも〉〈いつも見ていたい〉ものの、〈それもまた叶わない〉という気持ち。

上述の通り、「それもまた叶わない」はマストとは言えないかと思います。

問三

古い時代にはあって後世にはない言葉や、その逆に後世にはあって古い時代にはない言葉は多くあるが、思いもよらない言葉によってそういった各時代の空白を埋める働きをさせていることが、古い時代・後世のお互いにおいてあるのだろうということ。

最終段落の「これによりて思へば、」より後を訳出していけばOKです。「よくたづねなば」はかかる条件句なので、比較的入れる必然性は下がりそうです(入れても間違いではないと思います)。

古い時代にはあってのちの時代にはない言葉や、その逆にのちの時代にはあって古い時代にはない言葉はたくさんありますが、思いもよらない言葉でその働きをさせていることが、お互いにあるということですね。

四行もあるので、「たがひに」をもう少し詳しく説明しています。「お互いに」とは、二者の間でそれぞれ双方向的に、という意味合いを持ちますので、今回はその二者が「古い時代・後世」の両者であるということを明示している感じです。

部分点

〈古い時代にはあって後世にはない言葉〉や、その逆に〈後世にはあって古い時代にはない言葉は多くある〉が、〈思いもよらない言葉によって〉そういった〈各時代の空白を埋める働きをさせている〉ことが、〈古い時代・後世のお互いにおいてある〉のだろうということ。

「その用をなしたる」を、「各時代の空白を埋める働きをさせている」としていますが、普通に「存在しない言葉の働きをさせている」とかでも大丈夫かと。ただ、「なす」なので、「働きをする」ではなく「働きをさせる」の方がいいと思います。

読解後のつれづれ

古い語と新しい語の話で、通時的な視点〜って感じでエモかったです。笑

今回の筆者は「語句」みたいな意味で「詞」という語を使っていました。私も解答例の中では「言葉」という語を使っていましたが、「言葉」は粒度がさまざまです。日本語や英語といった言語のことも「言葉」と言いますし、今回のように語句みたいなサイズのものも「言葉」と言えます。

厳密に言えば、言語学では「言葉」という言葉はあんまり使いません(上述のようなブレがあるからですかね)。また、「単語」という言い方もほぼしません。「単」にするためには語を単独に区切らないといけないのですが、それが結構難しい言語もたくさんあるからです(世界の言語は、英語のように分かち書きをすることで語の境界を明瞭にする言語ばかりではありません)。

その意味では、今回の解答例も「言葉」ではなく「語」とした方が正確性は上がります。しかしそれは厳密性と伝達性のバランスのうえで判断することかな〜とも思います。どれほど厳密性が求められる場面なのかと、伝える相手は誰か・どう言えば伝わりやすいかを突き合わせて、言葉を選んでいくという感じです。まぁ〜今回でいえば、伝える相手は採点官であり、そこそこ厳密性は求められていますので、「語」でもよかったかもな……と今は思いつつ(おいおい)、高校生視点の解答例というのもちょっとは大事かなとも思い、「言葉」という書き方をさせていただいた判断を留保したく思います。

もにょもにょ言いましたが、言葉選びって大事よねって話でした。今回もお疲れ様でした!

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