京都大学 国語2021[三]解答例と解説

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総評

栄花物語からの出題ですので、藤原家の話なんだな〜ってのはわかります。京大はリード文を丁寧に書いてくれることが多く、そういう場合はリード文にも解答根拠があったりします。気が抜けませんね。

難易度的には京大としては標準くらいかなと思います。また、今回もたくさんの人物が出てきているので関係がややこしいです。家系図をちょこちょこ書くなどで、親子関係などは明瞭にしておきましょう。

解答例と解説

問一

(1)朝廷の規定に定められているよりもさらに、心を砕いてあなた様にお仕えいたしましょう
(2)伊周様の元に参上すべきとは思っておりましたが、太宰府大弍の身としてやはり思うままに出歩くこともできないものであり、今まで参上しておりません。

(1)「公の御掟」が何なのかイマイチ判然としませんが、どうやら流刑となった公人をどのように扱うかということに関する定めがあるようです。私はあんまりそれが分かっていなかったので、ちょっと広く留めて「朝廷の規定」としました。「さしまして」は「まして」に接頭辞「さし」が付いた形ですが、「さし」はそんなに大きな意味を持ちません。

(2)「さすがに」は「そうは言ってもやはり」ですね。「えまかりありかぬ」は「え/まかり/ありか/ぬ」で、「退出し出回ることができない」です。「ありく」は四段活用で未然形なので、未然形接続の「ぬ」は打消→「え〜打消」です。「になむ、」は、「〜になむあり、」の「あり」が省略された形で、「であり」「であって」とかがいいと思います。「さぶらはぬ」は打消の「ぬ」以外付いていないので、「参上しない」ですが、「今まで」がついているので「参上していない」としています。

部分点

(1)〈朝廷の規定に定められている〉〈よりもさらに、心を砕いて〉あなた様に〈お仕えいたしましょう〉
(2)〈伊周様の元に参上すべきとは思っておりました〉が、〈太宰府大弍の身として〉〈やはり思うままに〉〈出歩くこともできない〉ものであり、〈今まで参上しておりません〉。

(1)「心を砕いて」は「心を込めて」や「丁重に」でもOKですが、ちょっと好きな言い回しなので使いました。

(2)「さすがに思いのままに〜」の理由として、「参るべくさぶらへども〜」から入れている感じです。直訳ではなく「太宰府大弐の身として」とつづめています。

問二

流刑先となる筑紫で、現地の有国はかつての主君である兼家の孫として伊周に心を尽くして仕える姿勢を見せ、献上品も多く寄越すものの、流刑の身としてかえってきまり悪く、他者との関わり全体に気持ちが沈み、わずらわしく思う気持ち。

「すずろはし」は「すずろなり」「そぞろなり」に近そうですね。現代語でも「気もそぞろ」と言わんことないです。そわそわ。

「これにつけてもすずろはし」と言っているので、有国がさまざまの物を櫃(入れ物)に入れてたくさん寄越すのに関して、という感じです。

これと被る内容が少し前にあります。傍線部(1)のすぐ後、「よろづ仕うまつるを、〜いと恥ずかしう、なべて世の中さへ憂く思さる」です。ここも有国が(人づてに)丁重にお仕えしますと述べていることに対して、伊周は「恥ずかし」「憂く思す」となっています。この2箇所から記述を作っています。

伊周は流刑の身として、母と生き別れてはるばる九州までやってきたわけですが、後述されているように当時は九州まで行くのに十余日かかります。そんな辺境の地に流刑され、現地の有国にもてなされているわけですが、素直にうれしいとは思えず、かえってちょっと煩わしい、という形でしょうか。

部分点

〈流刑先となる筑紫で、現地の有国は〉〈かつての主君である兼家の孫として〉〈伊周に心を尽くして仕える姿勢を見せ〉、〈献上品も多く寄越す〉ものの、〈流刑の身としてかえって〉〈きまり悪く〉、〈他者との関わり全体に気持ちが沈み〉、〈わずらわしく思う〉気持ち。

「かつての主君である兼家の孫として」は、なくても致命的ではありませんが、有国が伊周を丁重に扱う根拠のため、あると良さそうです。「きまり悪く」は「恥づかし」の訳出です。訳出としてよく使われる語ですが、意味がやや広めなので覚えておくと便利です。「他者との関わり全体に気持ちが沈み」は「なべて世の中さへ憂く思さる」からとっています。「世(の中)」は、「世間」と「男女の関係」と意味がありますが、なんとなくその中間を取ったような訳出をしました。

問三

伊周の母北の方が、その父成忠よりも早く亡くなってしまったことで、父親である成忠のむやみやたらな長命さが際立ち、かえって切なく感じるということ。

傍線部を直訳すると、「二位(忠成)の長命さが、しみじみと切なく思えた」となります。それほど難しくありませんが、その理由は娘である北の方が、父親である忠成よりも早く亡くなるということになったからです。忠成は「むげに老いはてて、たはやすくも動かねば、〜」→「年老いて自由に動けなかったので息子たちが葬儀を行った」という記述より、少なくとも北の方が亡くなった時点では生きていると思われます。

概ねこれで内容的にはカバーできていますが、「むやみやたらな(長命さ)」は、「むげに老いはてて」からとっています。本来長命さは良いものですが、ここでは娘を先に亡くすという帰結となり、かえって長命さがマイナスに捉えられているという旨は含めておきたいです。

部分点

〈伊周の母北の方が、〈その父成忠よりも早く〉亡くなってしまった〉ことで、〈父親である成忠の〈むやみやたらな〉長命さが際立ち〉、〈かえって切なく感じる〉ということ。

「あはれ」の訳出はいろいろ選択肢があると思いますが、「切ない」が割とハマっている気がします。「しみじみと皮肉なものだと感じる」とかもいいかも。

問四

母を見舞うために京に戻り、捕えられて母と生き別れとなった時に喪服を着ておければよかったのに。そのままその別れこそが、母との永遠の別れであったことよ。

難し〜でした。私は当初、「そのをり」を、「母が亡くなったその時」だと思っていましたが、それだと後半の「やがてそれこそ別れなりけれ」の「それ」が何かわからなくなってしまいます。

ちょっと順番に考えてみましょう。なんで「そのをり」が「母が亡くなったその時」だと思ったかというと、その直前の記述が、北の方の死を伝えにきた人を伊周が迎えている場面だったからです。京から九州までは十余日かかりますので、伊周が母の死を知るのは、母の死後十日以上が経ち、葬儀等も終わってからになります。その葬儀のタイミングで、伊周も母を喪服で弔いたかったのかな、と思った次第です。

ただ、こうすると「やがてそれこそ別れなりけれ(それがそのまま別れであったのだなあ)」がよくわかりません。これを通すため、「そのをり」を「母を見舞って京都に行き、捉えられた時」とする方が良さそうです。「母を見舞うために京に行った時に、喪服を着ておけばよかった。それがそのまま死別となってしまったことよ」という繋がりになり通りますので、こっちの方が良さそうです。前者も直前の内容的には通りそうなものですが、やっぱり後半がわからなくなってしまうんですよね……。

部分点

〈母を見舞うために京に戻り、捕えられて母と生き別れとなった時に〉〈喪服を着ておければよかったのに〉。〈そのままその別れこそが〉、〈母との永遠の別れであったことよ〉。

細かいところも訳せているか、ちょっと気をつけてみてください。「そのをり」の内容は、解答内の記述だけで状況が理解できるものになっていますでしょうか。私は結構細かく説明しています。

「喪服」は先に持ってきても、倒置のままでもどっちでもいいと思います。

「そのままその別れこそが」はちょっと細かいですが、「やがて」が「そのまま」で、「それ」が「その別れ」です。「それ」のままでもいい気もしましたが、一般的に、「それ」と「その○○」とでは、「○○」による内容限定の程度が違います。今回も、「そのままそれが」としていると、「それ」の瞬間ではその指示対象が「喪服」である可能性も残ります(「永遠の別れであった」という述定により、読み手は「ああ、『それ』は『別れ』だったんだな」と後で合点できるので、必ずしも悪い記述ではありませんが)。これを、「その別れ」としておくことで、「別れ」について言ってるよ〜ということを明確にし、主語の時点で内容が確定できます。そうすることで、読み手の瞬間的な脳内メモリの占有を防ぐことができるので、一読で理解してもらいやすくなるんじゃねって思います。日本語は主語と述語が離れる言語ですので、述定が来るまで主語の中身がよ〜わからんと、その分読むのも大変になってしまうわけです。また設問解説から離れてしまいましたが、この辺で。

読解後のつれづれ

あまりおもしれ〜ってなる記述はなかったのですが、敢えていえば母の死を伝えにきた伝令に対する伊周の態度は興味深かったです。「あはれ、さればよ、よくこそ見たてまつり見えたてまつりにけれ」と思い、「御服など奉る」と言って褒美も取らせています。目の前の伝令に対して丁寧に接している様子が伺え、伊周いい奴じゃん……と思いました。

今回はつれづれが短めですが、これにて。お疲れ様でした!

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