大学入学共通テスト国語 2021本試[2(小説)]解説

目次

解説

ご留意
選択肢の吟味において、「×・△・?」を選択肢の該当箇所に付けていきます。×は「これはちゃうやろ」、△は「ちゃうかもしれん」、?は「びっみょ〜」って感じです。結局は△と?がついた箇所の吟味となることがほとんどです。
あと、私が解答作成前に解いて間違えたところは正直に言います(かなしいけど)。ちょっとご参考にください。

問1

(ア)正答②

「術がない」は「方法がない」が基本的な意味ですので、そこから外れない②が正答です。「方法」を「手立て」としているのが何とも言えない感じです。

(イ)正答②

「〜はぐれる」は「〜しそびれる」という感じです。「食いっぱぐれる」で時々見ますね。②以外は少し余計な意味を含んでいます。

(ウ)正答①

間違えました〜なんという。③を選びましたが①が正答でした。「足が遠くなる」の基本的な意味としては「会わなくなる」だとは思っていたのですが、本文において「私」は転職して以来Wくんに一度も会っていないので、「一層会わなくなる」って言えるのかな〜って思って外してしまいました。まぁ考え直してみるといけそうな気もします。比較の「より」に近い「一層」というよりは、「なおさら」みたいな意味に近い「一層」なんでしょうね。

問2 正答③

「私」は自分の羽織がW君からもらったものだということを「妙な羽目からつい言いはぐれて了って、今だに妻に打ち明けていない」状態で、妻は妻で「私が結婚の折に特に拵えたものと信じて居る」という状況です。その状況で妻が私の羽織を褒めるもので、私は「擽ぐられるような思」で「誤魔化して居た」わけです。こういった内容をしっかり捉えられているものが正答となります。

選択肢の吟味

①「妻に対する、笑い出したいような気持ち」が△です。「私」が妻の誤解を面白く捉えているような記述はありません。

②「妻に事実を知られた場合を想像して、不安になっている」が△です。「事実を知られた場合を想像し」ている記述はありません。

③正答です。褒められた時に「くすぐったい」という比喩を使うこともありますが、今回はそれだけでなく、何とはなしに言いそびれてここまできてしまった後ろめたさも取り込んでいます。

④「羽織だけほめることを物足りなく思う」が△です。前の文脈を一向に押さえられていません。

⑤「妻に打ち明けてみたい衝動」も△ですし、「自分を侮っている妻への不満」も×寄りです。そういった衝動や不満が描かれている箇所が見当たりません。蛇足ですが、今回は地の文が「私」視点の語りですので、「自分を侮っている妻」を読み取るためには、「私」が「妻に侮られている」と感じていなければなりません。それは流石に読めないかな〜という感じです。

問3 正答①

W君は「私」への恩返しとして、「羽織と時計」という、「私の身についたものの中で最も高価なもの」をくれています。私は感謝とともに、「やましいような気恥しいような、訳のわからぬ一種の重苦しい感情」を持っています。これは一つ前の段落の「或る重い圧迫」と共有するものです。「私」の物的な財産のうち、もっとも高価なものはどちらもW君に由来しているため、「私」はW君の存在感を無視することができないという感じでしょうか。

選択肢の吟味

①正答です。が、「自分には到底釣り合わないほど立派なものに思え」は?を付けました。「自分の持ち物の中では最も高価」は言えますが、「自分には釣り合わない」は言えるのか? もしかすると、羽織だけが立派で袴とかは普通、というエピソードから言っているのがしれません。

②「実はさしたる必要を感じていなかった」が△です。W君の贈り物に対して、そこまでのネガティブな記述はありません。

③「時計までも希望し」「欲の深さ」などことごとく×です。

④「自分の力では手に入れられなかったことを情けなく感じており」「自分へ向けられた哀れみを感じ取っている」も×です。記載がありません。

⑤「その好意には見返りを期待する底意をも察知している」が△です。周囲の人がそのような言説をしているのは確かですが、「私」がそれと同じことを感じているかは明瞭ではありません。

問4 正答①

ちょっと難しかったです。

W君の奥さんの「私」に対する批判(として「私」が邪推していること)は、「こちらは良い物をあげたのに、薄情な奴ね」という文脈です。積極的には選べず、ズレるところを順番に外していったとこほ、①と⑤が残りました。その間でがんばって比べて、えいやで選びました。

選択肢の吟味

①正答です。が、「その間看病を続けた妻君に自分の冷たさを責められるのではないか」に?を付けていました。まぁ読み直してみると大丈夫ですかね。

②「彼の恩義に酬いる番だと思う」は△です。「私」はお見舞いに行かねばとは思っていますが、そこまでの積極性を持っているかはちょっと微妙です。また「転職後にさほど家計も潤わずW君を経済的に助けられない」も△です。転職後の「私」の家計については、記述が明瞭ではありません。

③「W君のことをつい忘れてしまうふがいなさを感じたまま見舞に出かけると」が△です。「私」がW君の奥さんを恐れているのは、「恩恵的債務」の未返済について責められているのではないか思っているからです。

④「妻君の前では卑屈にへりくだらねばならないことを疎ましくも感じている」が△です。このような疎ましさの記述が見当たりません。

⑤悩みましたが、「W君が『私』を立派な人間と評価してくれたことに感謝の気持ち」が△かな〜と。W君は休職中のお礼として「私」に酬いているので、「立派な人間と評価」はちょっと違うかな〜と。また、「自分だけが幸せになっているのに」という対比も、あまり本文中で明瞭ではありません。

問5 正答⑤

そんなに難しくないです。「私」はW君の親類に偶然ぶつかって、知らないふりをしてW君を見舞う算段を取り付けようとしながら、三年四年と経ってしまいます。そして今年の新緑の頃、その算段を控えめに自分から動かすため、W君(の親類)の店で妻に餡パンを買わせつつ、家の中の様子を伺っていました。ただこれも算段通りにはいかないわけですが……。

選択肢の吟味

①「質素な生活を演出しようと作為的な振る舞いに及んでいる」が△です。「私」にそのような意図があるとは読めません。

②「その悩みを悟られまいとして妻にまで虚勢を張るはめになっている」が△です。「命じて」という言い方をしていますが、「虚勢を張る」という訳ではありません。

③「せめて店で買い物をすることによって、かつての厚意に少しでも応えることができればと考えている」が△です。そのために餡パンを買わせたのではありません。

④「W君の家族との間柄がこじれてしまったことが気がかりでならず」が△です。「私」が勝手に邪推しているだけで、実際に間柄がこじれているわけではありません。

⑤正答です。「回りくどいやり方で様子を窺う機会を作ろうとしている」が核で、合ってます。

問6(i) 正答④

宮島の批評文では、加能の「生活の種々相を〜多角的に描破して、そこから或るものを浮き上らせようとした」筆致について評価しています。しかし、「羽織と時計」においては、「時計と羽織とに作者が関心し過ぎ」ており、「小話臭味の多過ぎた嫌いがある」と批判しています。つまり、「時計と羽織」をキーにすることで、まとまりとオチのある小話にしたろって思いが強すぎるんじゃねって言っている感じですね。それによって、宮島にとっての加能の良さである「生活の種々相を多角的に〜」が失われてしまっているんじゃねって感じです。これに合うのが④で、正答です。

選択肢の吟味

↑の解説にて代えさせていただきます。

問6(ii) 正答④

よ〜わからん問題です。本文と照らしつつ、指定されている該当箇所(本文において「羽織と時計」という表現が出てくる箇所)の前後も読み直し、間違っていそうな選択肢を切っていきましょう。

選択肢の吟味

①「かつてのようにはW君を信頼できなくなっていく」が△です。もともとW君との間に「信頼」と呼べるほどまでの関係があったかも微妙です。信頼関係じゃないから、「恩恵的債務」と感じるんじゃねとも思います。

②「複雑な人間関係に耐えられず生活の破綻を招いてしまったW君のつたなさ」が△です。別にW君の生活が苦しいのは病気とかのためであって、「人間関係に耐えられず」ではないんじゃないでしょうか。

③「W君の思いの純粋さを想起させる」が△です。先ほどもちらっと書きましたが、今回の本文は地の文が「私」の視点ですので、「W君の思いの純粋さ」を読み取るためには「私」がその純粋さを感じていないといけません。が、そんな風に感じているかは微妙です。

④正答です。本文の該当箇所の前後では、「羽織と時計」によって、「私」がW君との関係を回顧している様子が読めます。蛇足ですが、これは評者(=宮島)への「反論」ではなく、「異なる見解を提示」しているだけです。こういう良いところもあんじゃん!って言ってるだけです。

読解後のつれづれ

五十五行目の「恩恵的債務」という言葉が印象的でした。この言葉の密度、めちゃくちゃ高くないですか? 「私」がW君に対して抱えている思いや文脈をぎゅっと五文字に収めています。こういうの……良いっすよね〜!(何が?笑)

さて、共通テストでは大抵の場合、本文以外の情報リソースが提示されるようになりましたが、それと本文をどのように絡めるべきなのか、もしくは絡めるべきではないのかの判断が結構大事かな〜と思います。今回の問6で言えば、(i)は【資料】だけで解ける一方、(ii)は本文と照らして考える必要があります。逆に、【資料】だけで解ける問題で本文を読み返すと間違えることもありそうです。この点はある程度訓練が必要と思いますので、過去問や模試でがんばっていきましょう〜今回もお疲れ様でした!

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