大学入学共通テスト国語 2021追試[1(評論)]解説

目次

解説

選択肢の吟味において、「×・△・?」を選択肢の該当箇所に付けていきます。×は「これはちゃうやろ」、△は「ちゃうかもしれん」、?は「びっみょ〜」って感じです。

問1

(ア) 抱かせ / ①包含 ②抱負 ③砲台 ④飽和

(イ) 繊維 / ①維持 ②安易 ③脅威 ④依拠

(ウ) 誇示 / ①回顧 ②凝固 ③誇張 ④孤高

(エ) 見劣り / ①陳列 ②猛烈 ③破裂 ④卑劣

(オ) 系譜 / ①付合 ②譜面 ③不慮 ④扶養

問2 正答②

普通に間違えました(⑤を選びました)。「もう一つの生理的配慮」とあるので、二つの「生理的配慮」が何なのかを明確にしたうえで、「どちらが早いともいえない時期」にどういう状態だったのかをちゃんと捉えないといけないっぽいです。

一つ目の生理的配慮は「椅子の背を傾けること」であり、これは「上体を支える筋肉の緊張をいくらかでも緩和するため」(第二段落)のものです。そして二つ目の生理的配慮は「クッションを使うこと」なわけですが、これは硬い椅子からの圧力を緩和するためのものです。そして、「どちらが早いともいえない時期」として、十七世紀の椅子の背は傾き始めていたし(第二段落)、十六世紀から十七世紀にかけて、椅子とクッションはひとつになり始めていた(第五段落)わけです。間の第四段落がクッション全般の歴史を辿っているので少しややこしいですが、十七世紀時点で椅子とクッションは一体化していたと判断してよろしいかと思います。

選択肢の吟味

①「椅子にキャスターをつけて可動式とし、身体障害者や病人の移動を容易にするための配慮も現れた」が×です。「もう一つの配慮」はクッションに関わる話なので、キャスターの話ではありません。

②正答です。が、私は「椅子と一体化したクッションを用いて」に△を付けていました。完全に言い訳ですが、「椅子にクッションを一体化させ」にしてくれたらもう少し悩んだのですが……あくまで主体は椅子な気がするので……。

③「椅子の背を調整して一定の姿勢で座り続ける苦痛を和らげる配慮」が?です。広く取ればそうかもしれないのですが、椅子の背を傾けるのは「上体を支える筋肉の緊張をいくらかでも緩和するため」と明言されているので、やや外れます(③以外の選択肢は全て「上体」や「上半身」という語を使っていますし)。

④「ほとんど同じ時期に、エジプトやギリシャにおいてクッションを用いることで」が△です。本文の限り、エジプトやギリシャでクッションが用いられていたのは「古代から」と書かれていますので、椅子の背の傾き(十七世紀)と合いません。

⑤「ほとんど同じ時期に、それ自体が可動式の家具のようにさえなったクッションを用いて」が△です。上述の通り、椅子の背の傾斜の時点ではクッションは椅子にくっつき始めていました。よって、別離した感じになっている記述はやや時代遅れです。

問3 正答②

第七段落の内容から概ね判断できるかと思います。衣装は「社会的な記号」であるとともに、「かさのある身体」でもあるとされています。十六世紀の婦人たちが鯨骨を用いて広がったスカートを身につけていたのは、当時の社会的マナー(規範というか、流行というか)によるものでしょうし、その広がったスカートによって、座る椅子も形を変えていたとわかります。それを受けて第七段落後半に「文化としての『身体』は、さまざまな意味において単純な自然的肉体ではない」とあるように、その時々の社会的・政治的背景は「自然的肉体」に結びついて「文化的肉体」のようなものを構成します(例えば衣装を身につけた肉体)。これが椅子にも影響を及ぼしていたため、椅子もまた文化的な要素を孕むという話かと思います。

選択肢の吟味

①全体的に×です。「身体に配慮する政治学の普遍性」が何を指すのかよくわかりません。

②正答です。椅子は文化的な背景(衣装)をもつ肉体の影響も受けて形を変えていたため、「文化的な記号」と言えるという。

③「貴族の服飾文化に合わせた形態の椅子がこれまでとは異なる解剖学的な記号として登場した」が△です。ここで言う椅子は文化性を受けているので、「解剖学的な記号」は合いません。

④「機能性には直結しない服飾文化に振り向けることで仮面のように覆い隠そうとする政治的な記号としての役割があった」が△です。本文のパーツを使ってそれっぽい記述を重ねていますが、椅子に「政治的な記号」まで持たせるのはなかなか無理があるかと。。。もともと「文化的肉体の影響を受けているので文化的な側面もある」という話なので、椅子自体にそれほどパワーがあるわけではありません。

⑤「生理的な快適さを手放してでも、社会的な記号として華美な椅子が重視された」が△です。第七段落の椅子の変化は、「生理的な快適さを手放し」「華美な椅子」という例にはなっていません。

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問4 正答⑤

選択肢が長いので判断が大変ですね。傍線部が結局どのようなことを述べているかをざっくり理解してから選択肢を読んでいった方が良さげです。第八段落を丁寧に読んでいきましょう。

ブルジョワジーは注釈にある通り「裕福な市民層」であり、それまでの貴族層とは違う身分の人々です。もともと市民層であり、生まれながらに裕福な家系というわけではない彼らは、本文で言う「働く『身体』」を持っていました。そんな彼らの立場が上昇し、支配の座についたとき、彼らはそれまでの支配階級がうみだし、使用していた「もの」の文化を(捨てるのではなく)吸収しました。つまり、もともと持っていた「(市民層としての)働く『身体』」に、(支配階級の「もの」を受け継ぎ)支配階級の「(文化的)身体」を取り込むことで、ブルジョワジー固有の・新しい文化的身体(もしくは身体文化)を生み出していったというわけです。う〜ん、ついて来れてますでしょうか……笑

選択肢の吟味

①「ブルジョワジーはかつて労働者向けの簡素な『もの』を用いていた」が?です。そうかもしれないのですが、明確にそうとは書かれていないかなと。また、「支配階級に取って代わったとき、(中略)貴族的な装飾や快楽を求めるようになった」は△です。そのようなブルジョワジーの主観的・情緒的な説明はされていません。

②「ブルジョワジーは(中略)『もの』を受け継ぎ、それを宮廷社会への帰属の印として掲げていった」が?です。従来の貴族社会の「もの」をブルジョワジーがそのまま「掲げた」とは読み取れません。また、「『身体』と『もの』の文化は部分的に支配階級の権威の影響を受けており」も△です。貴族社会の「もの」を受け継いではいますが、それが「権威」によるものであるとは書かれていません。

③「貴族に固有の『もの』や『身体』で構成された宮廷文化を解消していくという側面もあった」が△です。ブルジョワジーは「もの」を受け継いでいるので、「解消」ではありません。また、「新しい支配階級に合った形がそのつど生じるので予見できない」も?です。「予見できない」と述べている箇所は無い気がします。

④「働く『身体』には『もの』の機能を追求し、それに応じて『もの』の形態を多様化させる潜在的な力がある」が△です。この選択肢だけ読んだら真っ当な主張に読める系の選択肢ですね。。ただ、ブルジョワジーが貴族社会の「もの」をどのように受け継いだかについてはあまり具体的に書かれておらず、この箇所も判断不能です。

⑤正答です。社会的な変化に応じて「もの」を受け継げば、それに応じて「(文化的)身体」も変化したり、要素が蓄積されたりするってことですね。

問5 正答③

どこを読めば良いという設問でもないので、消去法で消していきましょう。

選択肢の吟味

①「1段落では、本文の議論が最終的に生理学的問題として解決できるという見通しを示し」が△です。最終的に生理学的問題だけで終わっていませんので、見通しを示すことも不可能です。

②「6段落以降でもこの変化が社会にもたらした意義についての議論を継続している」が△です。第六段落は問題を「生理的配慮」から「文化的価値」に転換させる段落ですので、「議論を継続」とは言えません。

③正答です。選択肢末尾の「必要性を説いている」は微妙かな〜とも思いましたが、第六段落や第七段落で文化的な側面を述べることで、こういう側面を見逃してはダメだよねって言っているという感じでやや広く捉えれば、まぁ耐えかなと思います。

⑤「8段落は、(中略)5段落までの『もの』の議論と6段落からの『身体』の議論の接続を行っている」が△です。本文を通底して、「もの」と「身体」は相互に連関するものとして述べられており、「前半が『もの』で後半が『身体』」というような話にはなっていません。

問6 正答①・⑤

マジこれわかんなかったです。本文をどの程度抽象化すればいいのかぜんぜんヒントがなく、イマイチよ〜わからんかったです(ちゃんと間違えました)。

本文中で述べられている「もの」は椅子や衣服だったので、身につける・触れることでどうにかなる「もの」に限定したらいいの?とか、「もの」と「身体」が文化的に連関するプロセスの中身が重要じゃないの?とかいろいろ考えましたが、結局のところ「『もの』と『身体』が文化的になんか関わっている感じならヨシ!」みたいな話のようです(えぇ……)。本文では、「衣装(もの)→文化的身体→椅子(もの)」や、「貴族社会の『もの』→ブルジョワジーの新しい文化的身体」といったように、「もの」と「身体」はさまざまな形のプロセスを見せていましたが、選択肢を見る限り、そのプロセスの中身まで相似的にはなっていなさそうです。というわけで、設問中で教師が言っているように、「『もの』と『身体』との社会的関係」くらいの抽象度で、本文内容をそんなに深く加味せずに考えた方が合います(これは生意気ながら作問者に対する皮肉です)。

選択肢の吟味

①正答です。「身体」が「(家屋という)もの」に影響をもたらしていますが、「身体」が「文化的身体」ではなくあくまで「生理的に過ごしやすい」という話にとどまっているので、「社会的関係」と言えません。

②割と合っていると自信が持ちやすかった選択肢です。身体に合わせて作られつつ、社会的な記号にもなっているという点で、椅子の例との相似性を読み取りやすかったため。

③これよくわかりませんでした。本文中で述べられているプロセスに照らして、この例って適切なの?と思ってました。結局、プロセスの中身はあんまり深く考えず、「もの」と「身体」が文化的な(社会的な)文脈で相互関係してるねってことなのかと思います。う〜ん。

④これも(正答ではないので)適切らしいのですが、本文から離れて言い過ぎでは?と思っています。まぁブルジョワジーが貴族社会の「もの」を取り入れたことと同じってことなのでしょうか。しかして「日本が取り入れようとした」という記述は気になります。ブルジョワジーは貴族社会の「もの」を取り込みましたが、それは本当に「貴族社会の文化的価値を取り入れようとした」からなのでしょうか? 「結果的にそうなった」ことと、「そのように意図していた」を混同してはいけないと思います(本文記述の範囲では、ブルジョワジーがやったことは「結果的にそうなった」の域を出ないかと)。そこまで考えてないのでしょうか? 「もの」と「(文化的)身体」が連関してるからヨシ!なんですかね。

⑤正答です。「もの」の話ではありますが、「(文化的)身体」の話があまりできていません。文化的身体は、文化的な「もの」を身に着けたり受容したりすることで、拡張・変容された身体のことですが、この例はそのような身体に触れられていません。でもスマホが現れたことで我々の文化的身体が変化したというのは、事実そうなんじゃないかなと思います。

⑥この選択肢も私はよくわかりません。衣装という「(文化的な)もの」が「身体」と関わっているという話にまで抽象化すればいいのかもしれませんが、本文中の例にあるプロセスと何の関係があるのでしょうか。椅子やブルジョワジーの例のような「変化」も感じられませんし、本当にプロセスを無視しているような気がする。う〜ん、納得いかん。

読解後のつれづれ

「椅子」という極めて具体な例から入っており、そこから論や考えをどんどん広げていく感じでおもしろかったですね。最初は単に歴史的変遷を追っていく話かな〜と思っていたら、どんどん文化的な話(≒むずかしい話)になっていったので、後半は読み取りに苦労しました。

第七段落や第八段落は、傍線部が引かれていたのもありますが、密度が高くちゃんと理解しながら読み進めていく感じの段落でした。局所的に引用や具体例が入っていますが、それ以外の文は読み逃せないところでしたし、全体の流れとして一読した上で、設問を考える際にこれらの段落だけはもう一読する感じで良かったと思います。メリハリつけて読んでいかないといけないので大変ですね。。今回もお疲れ様でした!

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