解説
選択肢の吟味において、「×・△・?」を選択肢の該当箇所に付けていきます。×は「これはちゃうやろ」、△は「ちゃうかもしれん」、?は「びっみょ〜」って感じです。
問1
(ア) 正答④
そんなに難しくないかと。「居心地の悪さ」は「女の人」がそのように感じてしまったのではないかと千春が懸念していることだという点だけ気をつければ大丈夫です。「自分が黙ってしまったことで」そのような懸念が生まれていますので、「落ち着かない」が一番無難です。それ以外の選択肢はやや余計な心情が含まれてしまう選択肢となっています。
(イ) 正答④
「危惧する」は「心配する」「懸念する」みたいな意味なので、辞書的な意味でも解けます。文脈的には①「疑いを持った」や⑤「恐れをなした」も通ってしまいますので、語句を知っているかという設問かと思います。
(ウ) 正答①
こちらも普通に辞書的な意味で通ります。「そんなむしのいい話があるか」みたいな使い方をしますね。
問2 正答②
傍線部Aの前の段落(三十八行目)の内容に沿って考えましょう。記述問題ではありませんが、傍線部A「何も言い返せないでいる」というような登場人物の状態・行動分析においては、「前提→出来事→心情→行動」と考えるのが良いです。以下のような感じになると思います。
(前提)千春は他人に「幸せ」なんて言われた記憶が過去に一度もない→(出来事)女の人に「それは幸せですねえ」と言われる→(心情)すこしびっくり→(行動・状態)何も言い返せないでいる
選択肢の吟味
①「周囲の誰からも自分が幸せだとは思われていないと感じていた」が△です。「幸せだ言われた記憶がない」とは言えますが、「周囲から幸せだと思われていないと感じていた」は言えません。「幸せだと言われた記憶がない」だけでは、他者からのマイナス評価を(千春)自身が感じていたとまでは読み取れないということです。また、「彼女の境遇を察し、言葉を失ってしまった」も△です。「何も言い返せないでいる」の直前の心情としては不適です。
②正答です。上述の内容を順序よく言い換えています。
③「話題が思い浮かばず、何か話さなくてはならないと焦ってしまった」が△です。少し前の二十七行目に「千春はその表情をもう少しだけ続けさせたい、と思って」とありますが、傍線部Aで言葉が出なかったのは、直前の女の人の発言によるものであり、心情は変化しています。
④「その皮肉に言葉が出なくなった」が×です。千春が女の人の言葉を悪意的に受け止めているとは流石に読めません。
⑤「話題をうまくやり過ごす返答の仕方が見つからなかった」が△です。状況的には合っている気もしますが、直前の千春の心の動きに即していません。
問3 正答⑤
傍線部が含まれる段落で考えましょう。千春は「何にもおもしろいと思えなくて高校をやめた」わけですが、それは自分の中でもあまり積極的な判断ではなかったと思っていることが推察できます。というのも、傍線部のように「この軽い小さい本のことだけでも、自分でわかるようになりたい」「(本が)おもしろいかつまらないかをなんとか自分でわかるようになりたい」と思っており、逆に言えば「高校をやめる」という(比較的大きな)判断は「あまりわからない(という意味でのつまらないという感情をベースにした)」判断だったと思われるからです。この本がおもしろいかつまらないかをわかりたいという気持ちは、もう少し進めると、そうすることで自分のことをわかり、高校をやめた自分も後からもう少し理由付けできるかもしれない(それで全て理由付けできるとは思わないけれど)、という感じかと。
選択肢の吟味
①「書店でもすぐ見つかるほど有名だとわかり、自分でも読んでみて内容を知りたい」が△です。「おもしろいかつまらないかわかるようになりたい」の要素が入っていませんし、「有名だから」は理由として明確ではありません。
②「その本をきっかけにして女の人とさらに親しくなりたい」が△です。そのような心情は描かれていません。
③「苦労しながら初めて購入した本なので」が△です。千春はサキの本を購入するために多少は苦労しているようにも見えますが、そのような苦労を理由としてこの本に思い入れを持っているとは読み取れません。
④「女の人から教えてもらいたかったのに、話がそれてしまったので、自分で読んでそのおもしろさだけでもわかりたい」が△です。全体的に△ですが、「おもしろいかつまらないかわかりたい」にもなっていないので不適です。
⑤正答です。が、「何かが変わるというかすかな期待をもって」はちょっとどうなんだろうかと思いました(そこまで千春の積極的な気持ちを読み取っていいのか?と)。まぁ、今まで買ったことがない文庫本を買うという行動に出ていること、「どうしてこんなもの買ったの」と思ってもべつにいいやと思える(値段だった)ことなど、千春の行動から多少の期待を推察してもいいのかもしれません。
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問4 正答⑤
当初、千春は「おもしろいかつまらないかわかるようになりたい」と思っており、本を読むことで「おもしろい」か「つまらない」かの感情を抱くことを期待していました。しかし、実際に本を読んでみると「声を出して笑ったわけでも、つまらないと本を投げ出したわけでもなかった」(七十九行目)わけです。本を読んでいる時の千春は「自分の家の庭に牛がいて、それが玄関から家の中に入ってくると思うと、ちょっと愉快な気持ちになった」(七十七行目)、「ただ、様子を想像していたいと思い、続けて読んでいたいと思った」(七十九行目)とあるように、「おもしろい」でも「つまらない」でもないけど、なんとなくちょっと良い感じ、という気持ちになることに気づいたということですね。
選択肢の吟味
①「画家の姿勢には勇気づけられた」「登場人物に共感することで自分の力にすることにある」が△です。そのような実直な学びを得たりはしていません。
②「本を読む喜びは、(中略)苦労して読み通すその過程によって生み出される」が△です。千春が本を読むことの苦労を積極的に捉えているとは読み取れません。
③「世界には牛と人との生活がすぐ近くにある人たちもいるという事実」が△です。千春は本の内容をあまり事実として読んではいないようですし、サキの小説が事実を描いているとは書かれていません。
④「本を読んだ感動は、それを読むに至る経緯や状況によって左右される」が△です。確かにこの本を読むに至る経緯は、女の人とのやり取りや本屋での出来事など複数の要素が含まれますが、この箇所で述べられていることはあまりそのような前提となるプロセスに主眼があるのではなく、あくまで本を読む体験(想像)の中にあるかと思います。
⑤正答です。「想像する」ことによって、千春が本を読むことに関してポジティブな気持ちを持っていることが説明されています。
問5 正答⑤
これ結構捉え方が難しくて、時々ある「本文の筆者がそのように意図して書いたと言っているのではないことを意識しないといけない設問」かと思いました。国語の設問一般としてそうですが、国語の読解は「課題文筆者の意図当てゲーム」ではなく「作問者と同じ読みをするゲーム」です。この設問も「絶対筆者そんなことまで考えて書いてないでしょ」というツッコミをしたくなる人がいるかと思いますが、上述の通り求められているのは「筆者の意図」ではなく「作問者の読み」です。作問者が、「(妥当に読んだら)こう読めるよね」と読んだものと、同じように我々も理解するとどうなるかという話です。
それを踏まえて、「ブンタン」の理解を進めましょう。ブンタンは、女の人が千春にくれたものという点で、女の人と千春を結びつけるものになります。このブンタンは千晴にとってただのブンタンではなく、「女の人がくれたブンタン」ということです。また、ブンタンは傍線部の通り「すっとする、良い香り」がするものであり、千春にとって爽やかな印象をもたらしています。よって、千春から見てブンタンは「女の人との関わりを象徴し、かつポジティブなもの」となります。千春は女の人をきっかけにしてサキの本を読み、内容を想像しながら続けて読んでいたいと思ったわけですから、ブンタンはその辺りの良い感じの気持ちを結びつけつつ象徴するという感じでしょうか。繰り返しになりますが、これは「千春が意識的にそう思っていた」という話でも、「筆者が意図的にそう書いた」という話でもなく、「作問者が、そう読めるよねって思って問題にした」という話です。
選択肢の吟味
①「千春が一人前の社会人として認められたことを示している」が×です。そんなこたぁあるかい。
②「その香りの印象は、他の人の生活に関心を持ち始めた千春の変化を示している」が△です。千春の変化は読書に関する部分しかあまり読み取れず、他者に関心を持ち始めたとは言えません。
③「自分にしか関心のなかった千春がその場しのぎの態度を改めて周囲との関係を作っていこうとする前向きな変化を強調している」が△です。②と同じく、千春の変化を拡大させすぎています。
④「千春が自分の意思で新たなことに取り組もうとする積極性を表している」が△です。良い話なのですが、これも千春の変化を前向きに捉えすぎています。
⑤正答です。千春に起こった変化を「本を読む楽しさを発見した」としており、一番逸脱がない選択肢になっています。また、「すっとする、良い香り」を「清新な喜び」と言い換えているところも対応性があり、適切です。
問6
本文を読み返さなくても、概ね対話文の中で引用されている表現で解けるかと思います。選択肢も長くないため、消去法で絞り、必要に応じて局所的に本文に戻って考えてみましょう。
Ⅰ 正答②
②と③で迷いました。「配慮」は同じような内容なので、②「相手と気さくに打ち解ける」か、③「内心がすぐ顔に出てしまう」かを考えるために、本文に逐次戻りました。女の人は表情の記述も豊かですが、「内心が顔に出ている」という書かれ方はされていないのかなと思います。本文の記述から、「気さく」は否定できないが、「内心が顔に出る」はそうでもないかもしれないなと思った感じです。
選択肢の吟味
①「自分の心の内は包み隠す」が△です。
②正答です。
③上述の通り、「内心がすぐ顔に出てしまう」が?です。
④「どこかに緊張感を漂わせている」が△です。
⑤「自分の思いもさらけ出す」が△です。
Ⅱ 正答④
空欄Ⅱの後のAさんの発言「『わかるようになりたい』という58行目の言葉も印象的だね」からわかる通り、千春が女の人とのやり取りをきっかけにして、「自分」に視点を向けています(問3の解説も参照)。そこからどこまで積極的な変化がこれから現れるかは不明ですが、とりあえず「(自分のことを)わかるようになりたい」という気持ちは言えるかと思います。
選択肢の吟味
①「周囲の誰に対しても打ち明けられないまま目をそらしてきた悩みに改めて向き合う」が?です。そのような悩みは明瞭には描かれていません。
②「後悔するばかりだった後ろ向きの思考から抜け出す」が△です。そこまでマイナス方向に強く描かれていません。
③「仕事に意義や楽しさを積極的に見出していく」が△です。あんまり仕事の話は関係ないかと。
④正答です。
⑤「他人への配慮について意識する」が?です。問5でも見た通り、千春の変化は他者を巻き込む積極的なものではなく、女の人をきっかけとした読書を通して、自己認識を深めていきたいというものです。
読解後のつれづれ
こういうしっとりとした心情の変化を、出来事や象徴を使って描いている(と読める)小説は結構好きです(おかげで満点でした)。
本を読んで、千春が「おもしろさやつまらなさを感じさせるものではない」と思ったのはとても良いなと思いました。「おもしろい」「つまらない」がわかりやすいだけが良いことではないよな〜と。そんな気持ちの狭間やグラデーションの中にある気持ちを大切にしていきたいですし、表現していきたいものだなと感じます。
試験問題は味わって読んでいる場合ではないことの方が多いと思いますが、なんか好きだなと思った課題文があれば、人生のどこかでまた読む機会があったらいいなと思いながら生きています。そういう課題文にであったら、解き終わって採点した後になんとなくその文章自体に思いを馳せてみる瞬間があってもいいかもしれません。いやまぁ、そうも言ってられないか。今回もお疲れ様でした!