大学入学共通テスト国語 2022本試[2(小説)]解説

目次

解説

ご留意
選択肢の吟味において、「×・△・?」を選択肢の該当箇所に付けていきます。×は「これはちゃうやろ」、△は「ちゃうかもしれん」、?は「びっみょ〜」って感じです。結局は△と?がついた箇所の吟味となることがほとんどです。
あと、私が解答作成前に解いて間違えたところは正直に言います(かなしいけど)。ちょっとご参考にください。

問1 正答②・⑥

それほど難しくないため、合わせておきたい設問です。「無意識のように〜彼の前に立っていた」という行動の要因ですので、「私」が「少年」とコミュニケーションを取りたいと思っていた背景となっているものを選べばOKです。他の選択肢は本文に書かれている内容もありますが、「私」の行動の背景としては繋がりません。

選択肢の吟味

①「少年にどんな疑惑が芽生えるか想像し恐ろしく思っていた」が△です。恐らくですが、疑惑が生じることを恐れていたのは少年の親の中にです。また、行動の理由として繋がりも悪いです。

②正答です。当事者である少年と直接交渉しないのはフェアではないと考えていたので、「私」は無意識のうちに少年との直接交渉の機会を捉えようとしたということです。

③全体的に△です。ここでいう「男」は看板に書かれた男のことかと思われますが、少年に話しかけた直接の要因にはなりません。

④こちらも全体的に△です。そういう記述はありますが、行動の要因になっていません。

⑤こちらも全体的に△です。少年の見た目は、少年に話しかける要因とはなっていません。

⑥正答です。どうにかしてほしいけど少年を説得する方法はなかったという状況で少年を道端で見かけたので、無意識のうちに少年に接触しようとした、となります。

問2 正答①

傍線部Bの直前から取るのが考えやすく、「一応は礼を尽して〜それを無視され、罵られたのは身に応えた」です。また、この段落末尾の「所詮当方は〜その方が私もまだ救われたろう」も足掛かりになります。こちらは「雀の論理」しか持っていないのですから、少年に断られればそれ以上看板撤去を求めることはできません。でもそれすらされず、存在を無下にするような態度で暴言を吐かれたのは、「私」にとってキツかったという感じですね。

選択肢の吟味

①正答です。特段問題はありません。

②「深い孤独」が△です。妻は冒頭では「私」の味方をしてくれていますし、この傍線部前後や以降に「孤独感」を表す箇所はありません。

③「分別のある大人として交渉にあたれば、説得できると見込んでいた」が?です。そのような見込みが読み取れる箇所が、傍線部前に見当たりません。

④「へりくだった態度で接したために、少年を増長させてしまった」が△です。少年の無礼な態度が、へりくだった態度で接したために増長したものかどうかは微妙です。また、「看板についての交渉が絶望的になったと感じたことによる」も△です。どちらかというと、傍線部は少年にまともに相手にされなかったことによる感情です。

⑤「一方的な干渉をしてしまった自分の態度に、理不尽さを感じたことによる」が△です。少年が相手にしてくれなかったので結果的に一方的な干渉ですが、そんな自分の態度の理不尽さによる感情ではありません。

問3 正答③

個人的に好きな問題です。人間の心の機微って感じで。笑

夜の隣家に忍び込んだ「私」ですが、実際に看板を目の前にすると、いろいろな気づきがあったようです。家の窓から見る「男」はあれだけ私の心を動かしてきたのに、いざ近くで看板を見ると、「ただの板」と思えます。しかし、いざその板に手を触れると、さらに気づきが現れます。この看板は丈夫なプラスチックのような材質であり、絵(=男)の耐久性は高そうです。それだけでなく、かなりしっかり固定されているようです。それは、隣の少年がそこそこ真剣な気持ちでこの看板を設置したということを彷彿とさせます。しっかりとした材質の看板で、しっかりと固定されているということで。その「覚悟」は相応なものなんだな、と「私」も思ったという次第です。

選択肢の吟味

①「隣家の庭に忍び込むには決意を必要とした」が?です。普通に考えれば隣家の庭に忍び込むには決意が必要なのですが、本文においてそのような記述が見当たりません。やや難しめの選択肢かと思います。

②「陰ながら応援したいような新たな感情」が?です。こちらも難しめですが、本文の「認めてやりたいような気分」は「応援したい」とまでは言えないと思います。「ふ〜ん、やるじゃん」と「がんばれ〜」は違うんじゃねって感じです。

③正答です。ところどころ言葉を変えていますが、他の選択肢に比べて無難な言い換えとなっています。

④「状況を受け入れてしまった方が気が楽になるのではないか」が△です。そのような気持ちが読み取れる記述がありません。

⑤「彼の気持ちを無視して一方的に苦情を申し立てようとしたことを悔やみ」が△です。後悔や申し訳なさは読み取れません。

問4(i) 正答②

該当箇所が散らばっているので、割と難しめかもしれません。基本的に、文字上から読み取れることとして各選択肢はあまり間違っていないのですが、「私」が少年に対して感じている心情に一番沿ったものは何かという考え方で、キツいものから外していきましょう。

選択肢の吟味

①「我が子に向けるような親しみを抱いている」が×です。そんなこたぁない。

②正答です。ただ、「怒りを抑えられなくなっている」はちょっと微妙な感じがしました。「私」の心情が明瞭に「怒り」であると言えるのか?という。どうやら他よりはマシなようです。

③ちょっと悩みました。②との違いは時系列性が強いかなのかもしれません。②は、礼を尽くそう→無礼な態度→怒りという時系列が読み取れますが、③は「一方で、内心では」となっており、どちらかというと同時性な印象です。そして、本文に近いのは時系列性がある方という感じでしょうか。

④「彼の若さをうらやんでいる」が×です。そんなこたぁない。

⑤「彼の年頃を外見から判断しようとしている」が△です。結果的に、少年の年頃を外見から判断しているのですが、「しようとしている」というわけではないと思います。実際の行動、特に「判断」という心的行動において、必ずしもその前段階に「〜しようとする」という意図が存在するとは限りません。

問4(ii) 正答①

結果的に合ってましたが、判断し切るのが難しかったです。こちらも全体的に広く読んでいく設問のため、本文から外れそうな内容にアタリを付け、必要があれば該当箇所を探して読み返すという解答プロセスになるかと。

選択肢の吟味

①正答です。が、ちょ〜っと外しかけました。「『あのオジサン』と無遠慮に呼んでおり、余裕をなくして表現の一貫性を失った様子が読み取れる」が?かな〜と付けていました。「あのオジサン」は無遠慮か?というのと、ここの「私」は「余裕をなくして」いるのか?というところに疑問符がついたためです。後述しますが、この①と④とで悩み比べて、最終①にした結果正解だったという感じです。

②「少年が憧れているらしい映画俳優への敬意を全面的に示すように『あのオジサン』と呼んでいる」が△です。①で言っていた『あのオジサン』と反対じゃないか……と思っていましたが、まぁこちらの方がさらに違うと思います。

③「『私』は妻の前では看板を『案山子』と呼び」が×です。「案山子」や「雀」といった喩え方は「私」の心中のものであり、妻に対して言ったとは描かれていません。

④「看板の絵を表する言葉を見失い慌てふためいている」が?です。慌てふためいている……は言い過ぎかもしれません。これと①の「無遠慮に」「余裕をなくして表現の一貫性を失った様子」を比べ、「慌てふためいている」の方が本文の書き方からは遠いかな〜という判断をしました。

問5(i) 正答①

整理がややこしいですが、落ち着けばそこまで難しくない問題のため、しっかり合わせたいです。XとYそれぞれで、「私」(=雀)が看板の男(=案山子)に対してどのような心理状態にいるかを考えましょう。

Xは家の窓から看板を見ている時ですので、「私」は看板によって心をざわつかせられています。これは、雀が案山子に脅かされて、近づき難く思っている様子と喩えられます。一方で、Yは「私」が看板に近づいた時ですので、「ただの板」「窓から見える男が同一人物とは到底信じ難かった」です。雀が、いざ案山子にとまってみれば、それは竹や藁でできたモノであり、「なんでこれを怖がっていたんだ」と思うような感じですね。

選択肢の吟味

①〜④ではなく、(ア)〜(エ)で見てみます。

(ア)正答の選択肢です。「私」は看板によっておどされている状態です。

(イ)「見かけばかりもっともらしい」が×です。「私」は看板に心をしっかりざわつかせられているため、「見かけばかり」とは言えません。

(ウ)正答の選択肢です。「私」はいざ看板に近づくと、「なんだこんなもんか」と思っています。

(エ)「おどし防ぐ」が×です。看板に近づいた私はおどし防がれていません。

よって①が正答です。

問5(ii) 正答⑤

こちらも広く読んでいく必要があります。本文と、【ノート】の「雀」や「案山子」に関する言及を勘案しながら、「なんか変じゃね?」というところを検証していき、選択肢を絞っていきましょう。

選択肢の吟味

①「虚勢を張る『案山子』のような看板に近づけず」が△です。「近づけず」という効果をもたらしているのであれば、それは「虚勢」とは言い難いです。また、「これまで『ただの板』にこだわり続けていたことに対して大人げなさを感じている」も?です。看板の取るに足らなさは感じていますが、そこから自分の「大人げなさ」については読み取りにくいかと思います。

②「『おどし防ぐもの』としての効果を実感し」が×です。逆です(近づいたところ、大したことないものと捉えるように変化しました)。

③「怖さを克服しえた自分に自信をもつことができた」が△です。「自分に自信」を読み取れる箇所がありません。

④「自分に哀れみを感じている」が△です。そのような感情を読み取れる箇所がありません。

⑤正答です。「自分に滑稽さを感じている」は、二重傍線部「苦笑した」と、それを含む段落の内容が根拠になります。近づけば「ただの板」であった「これ」に関して、必死に少年を説得しようとする年配の「私」という構図を振り返って、我ながら滑稽だという感じですね。

読解後のつれづれ

看板や他者(少年、妻)から度々心を動かされる「私」の様子が、読んでいて起伏もありちょっと楽しい感じですね。「案山子にとまった雀のようだ」という気持ちや、看板にかける少年の思いの想像など、非常に人間味のある心情がふと表れるところも、豊かな文章体験と言える気がします。そういうふとした感覚や比喩の中で我々も生きているはずなので、なんか時々立ち止まって自分の気づきに自覚的になる瞬間があってもいいかもですね。ではでは、今回もお疲れ様でした!

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