大学入学共通テスト国語 2022追試[2(小説)]解説

目次

解説

選択肢の吟味において、「×・△・?」を選択肢の該当箇所に付けていきます。×は「これはちゃうやろ」、△は「ちゃうかもしれん」、?は「びっみょ〜」って感じです。

問1 正答③

本文冒頭から七行目の「そういう気持」までで考えましょう。ピックアップするのは二行目の「見るべくもない陶画をよく見ようとする、何処までも定見のない自分に惘れていた」、五行目の「彼はいやしく眼をさらして」、六行目の「東京では陶器の店のあるところでは時間をかけて見るべきものもあるが、田舎の町では何も眼にふれてくるものは、なかった」です。「こんな田舎町でも『何かないか』と探してしまう自分への呆れ」、「結局何も見つからない寂しさ」の二点を押さえられていれば良いかと思います。

選択肢の吟味

①「東京から離れてしまった我が身を顧みて、言いようのない心細さを感じている」が?です。傍線部の「寂しさ」は「心細さ」とは距離があるかと思います。心細さって、不安とかが付随するものかと思うのですが、傍線部の「彼」がそのような心もとなさを感じているとは読み取れません。

②「信州の美術商なら掘り出し物があると期待して」が△です。「彼」が信州の美術商に期待をしているような記述はありません。書いていないけどそれっぽい内容を盛り込んで引っかけるパターンですね。また、「結局何も見つけられなかったことで自身の鑑賞眼のなさを思い知り」も△です。傍線部Aの「さびしさ」の前後に、「彼」自身の至らなさといった記述はありません。

③正答です。「うら悲しい」という表現をしていますね。なかなか便利な表現です。

④「かえって遠く離れた故郷を思い出し、しみじみと恋しく懐かしくなっている」が△です。四行目に「郷愁」という語を使っていますが、これは(結論として傍線部と関係ない心情なのですが)解釈が難しく、「ありふれた壺にちょっとでも心が惹かれること」を「行きずりの女の人に目を惹かれる美しさによく似ている故をもって」、「郷愁」と言っています。多分「後ろ髪が引かれる(なんとなく後に残す物が気になる)」という意味で、故郷を後に残してきたことと共通点があるってことなのではないでしょうか。いずれにせよ、傍線部Aの「寂しさ」と直接の関係はありません。

⑤「陶器への過剰な思い入れを続けることに、切ないほどの空虚さを感じている」が△です。傍線部は「見るべき物もない折の寂しさ」なので、自身の陶器への思い入れに対する内省とまでは言えません。もうちょっとシンプルにさみしい感じかと思います。

問2 正答①

表現に関する設問です。二十行目から二十八行目までの記述に関して、消去法で解いていきましょう。基本的に「彼」は雲鶴青磁に対して非常にポジティブな視線を注いでいますし、その美しさに「あまりに驚きが大きかった」(三十行目)と書かれています。

選択肢の吟味

①正答です。全体を通して、雲鶴青磁は「彼」の目を通した記述としてかなり情緒的に描かれています。

②「高級な陶器が『彼』の視点を通じて卑俗なもののように表現されている」が×です。「比喩を用いることで卑俗な印象をもたらす」というのはやや無理があります。かつ、基本的に「彼」は「見る目がある」ような印象として描かれていますし。

③「陶器に描かれている鶴の動きを分析しようとする『彼』の冷静沈着な態度が表現されている」が×です。二十八行目に「この恐ろしい雲鶴青磁を見とどけた時の寒気」などとあり、「冷静沈着に分析」とはなかなか言えません。

④「この陶器の穏やかなたたずまいに対して『彼』の感じた慕わしさが間接的に表現されている」が△です。三十〜三十一行目の「あまりに驚きが大きかった」より、基本的に雲鶴青磁に対しては強烈な衝撃とともに捉えられているので、「穏やかなたたずまい」に対する「慕わしさ」はちょっとズレます。

⑤「他の色をあえて用いないことで、かえって陶器の色鮮やかさに目を奪われている『彼』の様子が表現されている」が△です。普通にそんな表現とは言えません。「かえって」というワードは要注意で、なんかそんな気がしてくる選択肢によく入っています。共テの表現に関する問題で正答になる選択肢は、ある程度本文の根拠が取りやすいことが多く、さすがに今回はここだけで「かえって」とは言えません。

問3

「幾らかのからかい気分」に関する記述としては、「取りようによっては」「彼がそういう邪推として受け取ったものかも知れなかった」とあるので、これはあくまで「彼」の視点によるもので、「青年」が本当に「彼」をからかってやろうとしていたかは不明です。ただ、青年が持参した雲鶴青磁があまりにも見事であった衝撃により、「彼」がその持ち主である青年に対しても「穏やかな眼の中にたっぷりと構えた自信のようなものを見せて」と見えていることがわかります(繰り返しになりますが、これはあくまで「彼」の視点であり、青年にそのような気持ちや意図があったかは不明です)。

(i) 正答⑤

三十行目より「これは本物でしょうか」と青年は問うています。あくまで「彼」の視点で、(わかりやすくするために)青年に対してやや悪意のある書き方をしますと、(「彼」が邪推している)青年の心情は、「ふふん、私の雲鶴青磁の見事さに驚いているようだな。この状況なら私の方に主導権があるはずだ(余裕・自信)。さてこの男はこの雲鶴青磁の本当の価値をちゃんとわかっているのだろうか? 一つ試してやろう」→「これは本物でしょうか」という台詞につながる、という感じかと。これを踏まえて⑤が正答です。

選択肢の吟味

選択肢が短いので、⑤以外は「彼」の視点から見た青年の様子に合わないとして、割愛させていただきます。

(ii) 正答⑤

(i)とほぼ連結された問題かと思います。(i)が「価値を適切に見定められるか試されている」であるのであれば、青年は「彼」を試す立場にあるのですから、青年自身は雲鶴青磁の価値を適切に理解しているという前提が必要です。「彼」が(邪推かもしれないが)受け取った青年の「余裕」から、青年はこの雲鶴青磁の価値を知っていて、「彼」がそれを適切に見取れるかを試しているのでは……と思えたという形です。

選択肢の吟味

①「青年が盗品を持参したのではないかといぶかしんだ」が△です。そのような疑いをかけている記述がありません。

②「青年が自分をだまそうとしているのではないかと憶測した」が△です。(「彼」から見た)青年の態度は時系列で少しずつ変わっていますが、全体的に悪意があるようには書かれていません。

③「青年が陶器を見極める眼を持っていると誤解した」が?です。ちょっと絶妙ですが、青年自身が陶器を見極める眼を持っているかはわかりません。⑤とどう違うねんという話ですが、⑤は(本文内容からそう読み取れるではなく、空想上の話として)他の人が雲鶴青磁の価値を青年に伝えていても成り立ちますよね。③は「青年が陶器を見極める目を持っている」という能力の話をしており、⑤は「青年が陶器の真価を知っている」という状態の話をしています。本文として近いのは⑤という感じです。

④「軽薄な態度を取る青年が自分を見下しているのではないかと怪しんだ」が?です。こちらも絶妙ですが、青年の態度は二十九行目にあるように、「穏やかな眼の中にたっぷりと構えた自信のようなものを見せて」という書かれ方をしています。あまり「軽薄な態度」とは言えないかな〜というのと、⑤に比べてやや「見下している」は離れすぎかな〜と思いました。

⑤正答です。「陶器の真価を知っているのではないか」は明言されていない印象寄りなので、これもやや選びにくい選択肢ですが、上の解説で触れたように(i)の正答である「試されていると感じた」を踏まえて考えると、これが最も適当かと思います。

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問4 正答④

「彼」から見た青年の印象は少しずつコロコロと入れ替わっています。とてもざっくりと言うと、「お金を欲しそうにしている」状態と「父母や陶器のことを真摯に思っている」状態です。青年が「彼」を訪ねてきたときは、十行目ように「青年の眼になにか飢えているものを感じて、その飢えは金銭にある」と感じられていますが、その後陶器を取り出す時(十八行目)には「先刻庭の中で見かけた飢えたものがなくなり、穏やかになっていた」とされています。その後、雲鶴青磁を売る話になる(三十四行目)と、「ふたたびこの若い男の眼に飢えたような例のがつがつしたものが、うかべられた」とありますが、その後には父が大切にしていた雲鶴青磁を、(若者が読んだ随筆の作者である)「彼」に託したいという思いを切に語っています。これらの印象の転回は、必ずしも矛盾するものではなく、人間の心性っていろんなものが含まれているし、くるくる変わるものでもあるよねって感じですね。

さてここまでが長くなってしまいましたが、傍線部Dは「父母や陶器のことを真摯に思っている」方の心中を指すものです。四十行目〜四十五行目の内容から、父親が大切にしていた雲鶴青磁を、青年が見込んだ「彼」に託したいという真摯な思いが読み取れます。

選択肢の吟味

①「最後まで可能性を追い求める青年の懸命さ」が?です。青年が「彼」のもとにたどり着く前にどのようかプロセスがあったかは不明ですが、「彼」に託すことが「可能性を追い求めた結果」であるとは読み取れません。

②「市価よりも高い値段で青磁を買い取ってくれるだろうと期待するところ」が△です。青年が「彼」のもとを訪れたのは、父が大切にしていた青磁を託すに値すると思ったからです。もちろん青年もお金はほしいのですが、傍線部Dの時点では「飢え」の方の気持ちをあまり混ぜ込まない方が適切かと思います。

③「両親への愛情を貫こうとする青年の一途さがある」が△です。青年は、(許してくれるだろうという自信があるという点で)母との信頼関係はありそうですが、傍線部前の言動が「両親への愛情を貫く」とは言えません。

④正答です。直前でも、値段は安くても良いと言っており、「飢え」の方の気持ちももちろんあるところ、あくまで父のために自分が見込んだ「彼」に売ろうという姿勢を示しています。

⑤「自分が見出した人物に何としても手渡そうとするところに、生真面目な青年のかたくなさがある」が?です。ちょっと難しいですが、「何としても手渡そう」がちょっと引っかかるのと、「生真面目な青年のかたくなさ」がややマイナスにも取れる表現だったので④の方にしました。

問5 正答①

傍線部を含む最終段落の一通りの内容から考えられます。いろんな気持ちが混ざっていて人間的ですね。

傍線部の「その気持ち」は直前の「損をしたような気」です。「損をしたような気」が不愉快だったということになるので、そんな気分になる自分に辟易としているところもあるということです。青年から陶器を買い取らなかったことは正しかったはずなのに、損をした気分になっている自分は何なんだ、という気持ちでしょう。でもそりゃしゃあないよ、だってあの雲鶴青磁は自分が持っている最上の陶器に並ぶくらい良いものだったし、もう二度と手に入るチャンスは来ないであろうものなのに、それを自分からみすみす逃したんだもの。でも、青年を騙すようなことをしなかったってのは心まで腐っていなかったってことだしよかったかな。という感じですね。

選択肢の吟味

①正答です。「自分のいやしさを腹立たしく思った」と端的にまとめられていて良いですね。

②「その期待に応えられなかった自分の狭量さにいらだちを感じた」が△です。青磁を買い取らなかったことは正しかったと思っているので、「期待に応えられなかった」というきもちではありません。

③「青年の焦燥感に圧倒されるように、より高値を付ける美術商を紹介し手を引いてしまった自分の小心さに気が滅入った」が×です。上述の文脈を全然踏まえられていないので、さすがに……。

④「それに手を出す勇気を持てなかった自分の臆病さに嫌悪感を抱いた」が×です。これも「損をした気」に対する不愉快さであるという点が捉えられていません。

⑤「陶器の価値を正直に教えてしまった自分の単純さに落胆した」が△です。結局買い取らなかったことを、「彼」はまぁよかったんじゃねと思っています。

問6

【資料】として引かれている文章の筆者である柳宗悦は民芸学者として有名な人で、民芸品とかの話によく出てきます。とってもシンプルに言えば、「集める(蒐集する)こと」および集めるという行為に付随する「こと」を目的にしちゃダメで、本当に優れた「もの」(を集めること)に価値があるって話ですね。

(i) 正答①

【資料】全体の内容から、集める「こと」に目的があると、一つ一つの集める「もの」への視点が曇り、審美が適切に行えなくなるという点を踏まえて考えることができます。「猫を現したもの」を集める「こと」に目的を持ってしまうと、それぞれの猫を模した「もの」への真摯な視点を持てなくなってしまうかもしれないという感じでしょう。

選択肢の吟味

①以外は【資料】の内容を踏まえられていないので不適です。選択肢も短いので悪しからず割愛させていただきます。

(ii) 正答②

【資料】の内容も踏まえて、本文の「彼」について考えている設問です。雲鶴青磁はその素晴らしさによって「彼」に鮮烈な印象をもたらし、その姿が彼の目に焼き付いたような表現になっています。【資料】は、「こと」はダメで「もの」をちゃんと見ようね、という話であり、「彼」は「もの」をちゃんと見ているからこそ、雲鶴青磁の姿が鮮烈に残った、という話なのかと思います。対話文の末尾でも教師が「『もの』と真摯に向き合う『蒐集家』としての『彼』」と言われているので、【資料】に照らして「彼」がポジティブな評価を受けているのは適切かと。

選択肢の吟味

正答である②以外は、「こと」への意識がある程度重く書かれているので、全体的に不適です。あくまで「こと」<「もの」の態度がここでは評価されています。

(蛇足)ただこの設問、まぁ〜意図はわかるんですがそんなに成り立ってなくないですか? 【資料】で批判されているのは「集めること」が自己目的化されることによる審美眼の曇りなので、「入手すること」ではないと思うんですが……。ちょっとこじ付け感があるというか。もし、「彼」が陶器の収集癖が高じていて、あれもこれもという状態になっていたり、せめて「価値(値段)が高い陶器を手に入れたい」という気持ちがあったりするのであれば、この批判にも当たるのですが、本文の「彼」はもともとそうではないと思います。そのため、「『入手すること』を優先しなかったからこそ」というのはちょっと【資料】の主張を部分的に切り取りすぎでは?と思いました。皆さんいかがお考えでしょうか。

読解後のつれづれ

解説には直接関わらないのですが、【資料】に「蒐集家には明るい人が少く、何かいやな性質がつきまとう」とあって、ちょっとバッサリ言ってて笑ってしまいました。別にそこまで言わなくてもいいじゃん、集めることが目的になってても。笑

まぁ別に集めること自体が批判されているのではないと思います。集めることが目的になり、それぞれの「もの」への目が曇ることが問題なだけで。人の「集めたい」という気持ちはどこから来るのでしょうね。

まぁそんな思いも膨らんだところで。今回もお疲れ様でした!

この年の他の大問の解説

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