大学入学共通テスト国語 2023本試[2(小説)]解説

目次

解説

ご留意
選択肢の吟味において、「×・△・?」を選択肢の該当箇所に付けていきます。×は「これはちゃうやろ」、△は「ちゃうかもしれん」、?は「びっみょ〜」って感じです。結局は△と?がついた箇所の吟味となることがほとんどです。
あと、私が解答作成前に解いて間違えたところは正直に言います(かなしいけど)。ちょっとご参考にください。

問1 正答①

「私」がどのような気持ちで構想を提出したか、会長から何を言われたかをしっかり読めば難しい設問ではありません。

「微笑みながら眺めて呉れるにちがいない。そう私は信じた」「私はすこしは晴れがましい気持でもあった」が「私」の気持ちです。そうして提出した構想に対して、会長は「一体何のためになると思うんだね」と聞き、傍線部に繋がります。

選択肢の吟味

①正答です。「自信を持って提出した」はちょっとズレるかなとも思いましたが、「信じた」「晴れがましい気持」で説明はできるかなとなりました。

②「成果をあげて認められようと張り切って作った構想」が△です。「都民のひとりひとりが胸を張って生きてゆける筈」「私のさまざまな夢がこめられている」とはありますが、「成果をあげて認められよう」に近い内容はありません。

③「会長から頭ごなしの批判」が△です。「私」の構想は「悪評であるというより、てんで問題にされなかった」わけですから、「批判」というよりは「どういうこと?」という旨になります。また「どうにかその場を取り繕おうとしている」も△かなと思いました。傍線部Aの時点では、「私」は自分の誤りにまだ気づいていません。

④「過酷な食糧事情を抱える都民の現実を見誤っていた」が△です。都民が過酷な食糧事情を抱えているのは(この後の展開的にも)おそらく事実です。問題はそこではなく、筆者が今回の仕事の趣旨を誤解していたところにあります。

⑤「会長からテーマとの関連不足を指摘されてうろたえ」が△です。会長の指摘は「テーマ(「大東京の未来」)との関連不足」ではなく「なにこれ、どういうこと? 看板広告じゃないじゃん。これ出して何のためになるの?」です。

問2 正答⑤

傍線部Bが含まれる段落の内容から考えます。「飛んでもない誤解をしていたことが段々判ってきたのである」「たんなる儲け仕事にすぎなかったことは、少し考えれば判る筈であった」「ただただ私は自分の間抜けさ加減に腹を立てていたのであった」までで考えられます。何に腹を立てていて何を憎むのではないのかをしっかり捉え、選択肢を選びましょう。

選択肢の吟味

①「給料をもらって飢えをしのぎたいという自らの欲望を優先させた自分の浅ましさ」が×です。「私」が腹を立てている「自分の間抜けさ」は、任せられた仕事の主旨を誤解していた点にあります。

②「戦時中には国家的慈善事業を行っていた会社が戦後に方針転換した」が×です。この会社は戦時中も「情報局と手を組んでこんな仕事をやってきたというのも、〜たんなる儲け仕事にすぎなかった」とあります。

③「社員相互の啓発による競争を重視している」「会長があきれるような提案しかできなかった自分の無能さ」が△〜×です。「社員相互の啓発による競争」はあまり読み取れません。また、「私」が腹を立てているのは、「少し考えればわかることを理解せず誤解していた自分の間抜けさ」であり、「良い提案ができなかった無能さ」とは言えません。

④「東京を発展させていく意図などない」は明言されておらず、?としました。明言されていませんし、会長が言うような広告でも、結果的には発展に寄与するかもしれません。「自分の安直な姿勢」も△です。「間抜けさ」と「安直な姿勢」はちょっと違うかなと思います。

⑤正答です。傍線部が含まれる段落内容をちゃんと受けています。

問3 正答⑤

間違えました〜! ④と⑤でうんうん悩んで、えいやと④にしたら正答は⑤でしたね……。

「私はある苦痛をしのびながらそれを振り払った」「これ以上自分を苦しめて呉れるなと、老爺にむかって頭をさげていたかも知れないのだ。しかし私は、」といった内容を受けて考えます。また、傍線部中の「邪険な口調」をどこまで捉えるかに④と⑤の分かれ目があると思います。この点は選択肢吟味で。

選択肢の吟味

①「老爺にいら立った」が△です。「私」は「邪険な口調」で突き放すような発言をしていますが、その根拠が「いら立ち」である記述が不明瞭です。

②「彼を救えないことに対し頭を下げ許しを乞いたい」が×です。「救えないことが申し訳ない」ではなく、「これ以上私を苦しめないでくれ」と頼むため「頭を下げて願いたかった」です。

③「自分と重なるところがあると感じた」が△です。「私」が老爺と自分に重なるところがあると感じている箇所は見当たりません。我々読者から見れば(飢えの状態など)重なる部分もあるかもしれませんが、「私」がどう感じているかの選択肢になっていますので△です。「厚かましさ」も根拠が不明瞭です。

④私はこちらを選びました。「後ろめたさに付け込み」に?を付けていたのと、「嫌悪感を覚えた」も?としていましたが、傍線部中の「邪険な口調」から「嫌悪感」は言ってもいいのかな、と思いまして。。。(「邪険」は「相手の気持ちをくみ取ろうとせずに、意地悪くむごい扱いをすること」らしいので、「嫌悪感」は言い過ぎだったようです)

⑤正答です。私は「彼に向き合うことから逃れたい衝動に駆られた」を?としていました。正直なところ、「これ以上自分を苦しめてくれるなと頭を下げたい気持ち」から「邪険な口調で、老爺にこたえていた」の間には、「しかし」しかありませんので、この間の気持ちを読み取ることはかなり難しいとも言えます。とすると、「向き合うことから逃れたい衝動に駆られた」はこの後の相手を突き放す物言いを根拠としやすく、「嫌悪感」や「いら立ち」といった具体的な気持ちよりは「ダメじゃない」選択肢と言えるのかもしれません。う〜ん、なるほど。

問4 正答①

傍線部Dが含まれる段落全体から考えます。「私をとりまくさまざまな構図」「それらたくさんの構図にかこまれて、朝起きたときから食物のことばかり妄想し、〜一体どんなおそろしい結末が待っているのか」から判断できます。

選択肢の吟味

①正答です。↑の内容からして特に違和感もありませんでした。

②「そのような空想にふける自分は厳しい現実を直視できていないと認識した」が△です。本文に書かれていないことが多く、よくわからない選択肢に思えます。

③「その場しのぎの不器用な生き方しかできない我が身を振り返った」が△です。どちらかというと「こんな日常が連続してゆくことで、一体どんなおそろしい結末が待っているのか」は将来の話なので、「振り返った」はあまり合いません。

④「社会の構造にやっと思い至った」は△かな〜と思います。「さまざまな構図」がくるくると思い浮かんではいますが、それらは割とバラバラな印象で、「社会の構造」と言えるかは微妙です。また「会社に勤め始めて二十日以上経ってもその構造から抜け出せない自分」も、あまり明瞭に述べられていません。

⑤「社会の動向を広く認識できていなかった自分を見つめ直した」が△です。そんな視野の広い話をしておらず、自分の将来がすえ恐ろしくなったという話です。

問5 正答①

①と⑤でちょっと悩みましたが正解できました。「食えないことは、やはり良くないことだと思うんです」は「せやな」って感じの理由ですよね。

いつも空腹の状態にあった「私」にとって、「食える」ことはほぼ何よりも大切なことと言えると思います。でも、日給三円だと「食えない」わけです。それを聞かされた時の「衝動は、すぐ胸の奥で消えてしまって、その代りに私の手足のさきまで今ゆるゆると拡がってきたのは、水のように静かな怒りであった」が根拠となります。勘案の余地はあまりなく、「食えないなら辞める」、それは「私」にとってシンプルな答えでした。

選択肢の吟味

①正答です。「不本意な業務も受け入れていた」は?を付けていましたが、構想の立て直しを命じられて、「給料さえ貰えれば始めから私は何でもやるつもりでいたのだから」と書かれているところを概ね根拠とできる気がします。

②「営利重視の経営方針にも目をつぶってきたが」「不信感を抱いたことで、つい感情的に反論した」が×です。傍線部にあたる「私」の思考に、そこまでの視座や理性的な批判はありません。

③「夢を侮蔑されても会社勤めを続けてきた」はちょっと△です。夢を侮蔑されたことは「私」の判断にそれほど影響をもたらしていません。「課長に正論を述べても仕方ないと諦めて」も本文中の根拠が見当たりません。

④「課長に何を言っても正当な評価は得られないと感じて」が△です。「私」にとって大事なのは「食える」ことであり、「正当な評価を得る」ことではありません。

⑤少し悩みましたが、「静かな生活は自分で切り開くしかないという事実に変わりはなく」は?としました。本文より「静かな生活」とは、「盗みもする必要がない」「人並みな暮し」のことですが、これは「私」が会社から得る給料で期待していた生活です。一方、「切りひらいてゆく他なかった」のは「私の道」であり、「新しい生き方」です。それは「どうなるかまだわからないけれど、会社勤めではない、何とかかんとかして生きていく道」です。よって、「静かな生活」を「切り開くしかない」のは少し違うかなと。

問6 正答④

傍線部EとFの間で、「私」は「新しい生き方」を求める他ないことを自覚しており、会社勤めでは「静かな生活」が実現できないことがはっきりしたことで、かえって「新しい生き方」を模索する気がますます起こっている……という感じでしょうか。

選択肢の吟味

①「自由に生きようと徐々に思い始めている」が△です。自由に生きる喜びとかそんな余裕のある話ではないです。

②「自分がすべきことをイメージできるようになり」が×かな〜と思います。食堂で物を売り買いすることや、老爺のように食を乞うことなどは、候補としては挙がっていますが、「すべきことをイメージできるようになり」とは言えない気がします。

③「上司の言葉はありがたかったが」が△です。根拠が特にありません。また、「物乞いをしてでも生きていこうと決意を固めている」も微妙〜です。「なんかで生きていくしかねぇな」とは思っていると思いますが、「物乞いしてでも生きていくぜ!」とは思ってないのではないでしょうか。

④正答です。特にひっかかりもありません。

⑤「課長が自分に期待していた事実があることに自信を得て」が×です。課長の言葉をそのまま素直に受け取っていた根拠がありませんし、自信を得たというのもわかりません。

問7(i) 正答③

むずいな〜!と思います。マツダランプの広告と、「焼けビル」の持つ属性・性質をできる限り想定して、共通点と言えるところがあるかチェックしたうえで、「本文の会長の仕事のやり方」とも重なるようなものを選ばないといけません。頭に留め置く情報が多く、脳内メモリの処理が大変です。

消去法が難しいので、③が最も適切な理由を説明します。「戦時下に存在した事物が、終戦に伴い社会が変化する中においても生き延びている」を、各要素に対して当てはめてみると以下のようになります。

  • マツダランプの広告:広告が、「御家庭用は尠なくなりますから、」を消されて流用されている(御家庭用ではない=軍事用と推察できます)
  • 焼けビル:戦災で焼け残ったビルに、戦後の世情に応じて働く広告会社が入って存続している
  • 会長の仕事のやり方:戦時中は情報局と手を組んで儲け仕事をし、戦後も啓蒙の皮を被せて儲け仕事をする

それ以外の選択肢は、マツダランプの広告・焼けビル・会長の仕事のやり方のどれかにおいて、うまく当てはめることができない内容となります。

問7(ii) 正答②

こちらもむずいな〜!と思いました。本文末尾より、「この焼けビルは、私の飢えの季節の象徴のようにかなしくそそり立っていた」とあります。「象徴」は、たとえばある概念や様態といった(比較的)不定的なものごとを、(比較的)具体的なものごとを代わりに示して捉えるという感じのものです(鳩は平和の象徴)。

私は②と③で悩みました。「飢えの季節の象徴」としており、季節は移り変わるものですので、「私」が「焼けビル」を離れることで「決別」なのか?と思うと③になります。一方、「かなしくそそり立っていた」を重視し、(i)の正答である③の選択肢で、「焼けビル」が「社会が変化する中においても生き延びている」とされていることも勘案すると、「飢えの季節の象徴」である焼けビルが存在感を持って残っていることから、②の「飢えが継続している」の方になりそうです。こちらの方がやや根拠が多いということでしょうか。

読解後のつれづれ

問7はなかなか難しい問題でした。やっぱり共通テストになって、より抽象的な情報操作が求められる感じになっていますね。

最初から最後まで、「私」はおそらく空腹です。普段の私たちはここまで空腹ではないことが多いと思い、たとえば会社の方針に反感を持ったり、あるべき生き方について考えたりもできると思います。でも空腹な「私」にとっては、そういった思考も「高尚な」ものと言えるのかもしれません。

そんな極限状態の空腹を実際に経験しない人の方が多いと思いますし、しなくてもいいと私は思いますが、今回の課題文では「私」を通して、その空腹をある意味「体験する」ことができます。本当の体験・経験と同列とは思いませんが、そうやって得た「体験」も、人としての幅をちょっと広げるのには資するのではないかとも思います。

えらい真面目な話になってしまいました。。。今回もお疲れ様でした!

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