大学入学共通テスト国語 2023追試[2(小説)]解説

目次

解説

問1

(ア) 正答④

「てんで〜ない」は「まったく〜ない」の意味です。蛇足ですが、「とんと連絡がない」の「とんと」とは関係があるのか私はわかりませんが、なんか感覚が似ているような気がしました。

(イ) 正答③

「あからさまに」も「露骨に」(比喩的ですが)「オブラートに包まず」という感じの意味です。知識問題に近いかと思います。

(ウ) 正答⑤

うっかり間違えて②を選びました。反省。「いたずらに(徒に)」の言い換えとして最初に出てきたのが「むやみやたらに」なのですが、それに最も近いのは⑤ですね。「過剰」というのは、今回の文脈には合っている気もしますが、「いたずらに」が常に持ち合わせる意味ではないかと思います。

問2 正答④

文脈を丁寧に追っていけばそれほど難しい設問ではありません。基本的には余計なことを言ってしまっている選択肢を外していけば、自ずと正答が残るのではないかと思っておりますがどうでしょうか。

かっぽれは、苦心して書きつけた俳句を固パン→越後獅子の順番に見せますが、固パンは苦笑して返すだけ、越後獅子は「けしからぬ。」の一言でした。傍線部はその様子を見た「僕」がかっぽれに対する気の毒さを感じている場面であり、この文脈と「気の毒さ」以外の内容を勝手に盛り込んではいけません。

選択肢の吟味

①「十句そろえたこと自体は評価できるので」が△です。「僕」が「十句そろえたこと」を評価している直接的な記述がありません。

②「俳句が得意だという『かっぽれ』の体面を傷つけていたことに思い至り」が△です。「僕」のことを「先生」と言ったのは越後獅子ですが、そこにそこまで深い意味があるとは読み取れません。

③「持てる最大限の見識を示して相談に乗ってあげたい」が△です。「僕は不風流だから、俳句の妙味などてんでわからない」「すぐに返却しておゆるしを乞うべきところでもあった」とあり、「僕」がそこまで積極的な気持ちを持っているとは言えません。

④正答です。傍線部の後に、「これでも、自分で作るとなると、なかなか骨の折れるものなのではあるまいか」と述べており、「何かしら制作の労をねぎらってあげたい」という気持ちと齟齬はありません。

⑤「憤りを覚え、巧拙にかかわらずどうにかして称賛してあげたい」が×です。「僕」の心情として「憤り」と言えるほどの強い気持ちは読み取れません。

問3 正答①

「表現上の特徴について」という設問なので、内容をどのように表現しているかという観点で考えていきましょう。

かっぽれが書き付けた十句の最後の一句は、あまり俳句に詳しくない自覚がある「僕」でさえ知っているような、有名な句の盗作でした。とはいえ「僕」は「かっぽれに赤恥をかかせるようなこともしたくなかった」ため、最後の一句に問題がある(と自分が気付いている)ことをそれとなく示します。しかしかっぽれは「その句が一ばんいいと私は思っているんですがね」と言い、悪びれる様子もありません。ここまでの文脈から、傍線部の表現がどのような効果をもたらしているか、無難なものを選んでいきましょう。

選択肢の吟味

①正答です。心の中で「やれやれʅ(◞‿◟)ʃ」みたいな感じですね。「僕」においてはそんなに強い心情を抱いているわけではないと思います。

②「不遜な態度を取る『かっぽれ』への『僕』の怒りが強く示されている」が△です。傍線部直後の「僕」は「いい事は、いいに違いないでしょうけど。」と途方に暮れており、傍線部において「怒りが強く示されている」とするのは難しいと思います。

③「言葉を尽くしてもいっこうに話の通じない『かっぽれ』に対する『僕』のいら立ちが示されている」が△です。かっぽれに「僕」の言い分が通じていないのはそうなのですが、地の文にも根拠がなく、「いら立ち」を読み取るのがやや難しい気がします。

④「ぞんざいな表現が使われることで、同室者との会話では常に丁寧な口調で語る『僕』の様子が明らかになり」が?です。これ、心中ではぞんざいでも口調は丁寧だよってことですかね? 確かにそうと言えばそうなのですが、そう言われないと全然気付かない程度のことなので、あまり表現上の特徴とまで言えるものではありません。

—–スポンサーリンク—–

————————

問4 正答⑤

傍線部Bに近いので、そこからの繋がりも考えつつ読んでいきましょう。「もはや笑わずに」なので、そこまでの心象にややの変化があったと言えます。傍線部Bの直後にて、「途方に暮れ」ていた「僕」ですが、これはかっぽれの盗作をそれとなく指摘しても、かっぽれがその指摘を(意図的か非意図的かわかりませんが)無視してきたことによるものです。そこにかっぽれが重ねて「図に乗って来た」「少し僕を軽蔑するような口調で言う」というような態度を示してきたため、(そこまではそれなりに配慮してたけど)すん…って感じでマジ真顔になっちゃった感じですね。

選択肢の吟味

①「俳句に対する『かっぽれ』の真摯な態度に触れる中で」が×です。盗作してるんだから真摯なわけないですわな。ここ以外も全体的に誤りです。

②「稚拙な俳句に対して笑いをこらえるのに必死であったが」が△です。そのような記述はありません。これ以降も全体的に誤りです。

③「お互いの上下関係を明確にするため決然と異議を唱えておきたいと考えた」が△です。上下関係を明確にする意図が「僕」にあると読み取れるような記述があまりありません。

④「俳句に込めた彼の思いをとことん追及することでその言い分を否定しようとした」が△です。もともと盗作だと「僕」は気付いているので、かっぽれが「俳句に込めた思い」を掘り込む意図はありません。

⑤正答です。「発言の趣旨を聞き出そうとした」も、その後に続くかっぽれの応答に対して齟齬がありません。

問5 正答①

設問指示に「本文が『君』に宛てた手紙であることをふまえて」とあるので、その点留意しましょう。「内心の声は叫んでもいた」が、どのような心情による「叫び」なのかを考えます。今回の本文は「僕」視点の文章となりますので、地の文は基本的に「僕」の心中と捉えられます。

「僕」の心情の流れとしては次のような感じです。かっぽれの句の盗用をはっきりと指摘したところ、かっぽれはあっさり当該の句を引き下げ、別の句を提示します(結局、かっぽれに悪意があったのかは不明です)。盗んだ句ではなくなったので、「僕」は安心の気持ちになり、安心のあまりそんなに何も考えずに修正案(コスモスや→コスモスの)を口走ります。それを思いの外かっぽれが気に入り、「僕」を褒めます。「僕」は適当な発言が称揚され、かえってまた落ち着かない気持ちになります。正直なところ「僕」にとっては、盗んだ句でなければよいし、「コスモスや」でも「コスモスの」でもどちらでも良いのです。真剣に考えたわけでもない提案で褒められ、かえって気まずいからもういいよ〜やめてよ〜って感じですね。

選択肢の吟味

①正答です。ただ、「かっぽれの俳句に関心がなく」には?を付けていました。「僕」はかっぽれの俳句が盗用であると困るとは思っている気がするので、「かっぽれの俳句に関心がない」とまでは言えるのかな〜と思った感じです。ここで言う「関心がない」は傍線部前の「そんなもの、どっちだっていいじゃないか」を指しているようなので耐えということなのかもしれません。

②「『かっぽれ』の俳句などに関わっている状況自体が恥ずべきことだ」が△です。そこまで強い物言いを読み取る根拠があまりありません。

③「微細な修正案を提示することしかできなかった自分の苦悩」が△です。「僕」の修正案は「安心のあまり、よけいの事まで言ってしまった」ものなので、それに関して苦悩しているなどはなかなか無理があります。

④「『僕』の修正案に批判的な見解が出されないように『君』に対して予防線を張っておきたい」が△です。傍線部の「叫んでもいた」は、かっぽれとのやり取りのどうしようもなさによるものであり、「君」へのどうこうしたい心情ではありません。

⑤「内心ではどう修正しても彼の俳句が良くなることはないと感じており、本当は自らの修正案も含めて客観的に価値判断できているのだ」が△です。④の解説と被りますが、この傍線部はあまりそこまでメタ的な心情を述べている箇所ではないかと思います。

問6 正答④

ここまで、それぞれの設問でも「僕」がかっぽれの言動に(あまり良い意味ではなく)心を動かされてきたことがわかります。問2では「気の毒に思い」、問3では「盗作に呆れ」、問4では「居直って問いただし」、問5では「もうどっちでもいいよ〜」って感じです。ここまでを受けて傍線部「どうにも、かなわない気持ち」となるので、「もうまいったね、こりゃ」って感じかと思います。

選択肢の吟味

①「いらだちを見せたところで結局無駄であることに思い至った」が△です。ここまでの「僕」はかっぽれに対してあまりいらだちを見せておらず、内心は恐らく面倒がっていますが、「いらだちを見せても無駄」という判断ではないかと思います。

②「句の差し替えを提案されると敵意をむき出しにした」が△です。「不服らしく、口をとがらせた」とはありますが、「敵意をむき出し」は言い過ぎです。また、「これ以上まじめに応じる必要はないと思い至った」も△です。「かなわない気持ち」は「どうしたもんか」であり、「どうでもいいや」ではない方に寄っているかと思います。

③「かっぽれのけなげな態度に接して、盗作まがいの行為にも悪意はなかったのだと思い至った」が×です。「僕」の中でかっぽれに対するそこまでのポジティブな気持ちがあるとは読めません。

④正答です。振り回されてばかりなので、「もう参っちゃうよ〜お手上げだよ〜」って感じですね。

⑤「自分はからかわれていたのではないかと思い至った」が?です。最終的にかっぽれがどのような意図や心情で「僕」とやり取りしていたかはよくわかりません。盗作に悪意があったのかや、「僕」を揶揄しようとしていたのかなどは、「僕」視点である本文からはなかなか掴みきれません。まぁ結局「僕」がどう捉えているかという設問なので、かっぽれの真意はどちらでもいいのかもしれませんが、少なくとも「からかわれていたのでは」と「僕」が思っていそうな記述もありません。

問7(i) 正答②

外山滋比古! いいっすね〜。この【資料】のⅠの内容は、外山滋比古『異本論』などにも詳しくありますので、気になる方は読んでみては。

【資料】のⅠの内容としては、ある作品に対して読者が自己のコンテクストを踏まえて少し違った解釈をし続けることで「古典化」するって感じですね。同じ作品を読んでも、人によって、また時代によって解釈は少しずつ違います。それによって、「作者の意図した意味からの逸脱」が起こるわけですが、外山滋比古はそれを必ずしも否定的に捉えているわけではありません。

本文中のかっぽれも、この【資料】の内容を踏まえて(好意的に捉えてあげれば)、過去の句を今の自分(当時のかっぽれ)というコンテクストに即して捉え直していると言えんことはないです。なお、もちろん二重傍線部における「僕」はそれを「もてあそぶ」としており、(この時点では)否定的な見解を示しているわけですが。

選択肢の吟味

①「意図せず句の意味を取り違えている」が△です。ただ誤っているだけでは、【資料】のⅠの内容を踏まえられていません。

②正答です。「その本来の意味から離れて」はうっすら?を付けていました。「作者の意図した意味」を「本来の意味」としていいのかしら?と思ったためですが、まぁその辺詳しく述べられていないのでグレーでOKということでしょう。

③「時代を超えた普遍性を備えたものへと昇華させている」が×です。そんな大層なことはしとりませんがな。

④「江戸時代の人々と戦後を生きる自分たちの境遇に共通性を見出し」が△です。【資料】のⅠの内容を踏まえられていません。

問7(ii) 正答①

【資料】のⅡとしては、二重傍線部とは打って変わって、えらい穏やかなものの見方をしている「僕」がいますね。その見方は従来の「僕」の見方とは異なるため、「僕」自身もそれを「こんにちの新しい発明」と表現しています。

端的に言えば「民衆は、作者よりも作品を見ている(し、その分作者は重要ではない)」といった感じでしょうか。その作品を誰が作ったかや、作者が作品に込めた思いよりも、その作品自体の「面白さ」を大切にし、その面白さを自分ベースで素直に楽しむという作品享受の在り方を、「僕」も認識・評価できるようになったということでしょう。

選択肢の吟味

①正答です。特に問題ありません。

②「『僕』は、文学作品の意味を決定するのは読者であるという考えであった」が×です。二重傍線部の時点の「僕」は、作者の意図の方を重要視しています。

③「多様性のある価値は読者によって時代とともに付加されていく」が?です。やや外すのが難しい選択肢でした。読者によって「別の価値」が付加される可能性、という方が適切で、「多様性のある価値」は(正答である①に比べて)ちょ〜っとズレます。また、前半も①と比べると、ちょ〜っと本文中の「僕」の言説からズレているかと思います。

④「『僕』は、文学作品の価値は時代によって変化していくものだという考えであった」が△です。二重傍線部時点の「僕」は作者の意図を中心に据えているので、「時代によって変化していくものだ」とは思っていません。

読解後のつれづれ

かっぽれが本文中で「俳句には、時々こんなことがあるんで、こまるのです。何せ、たった十七文字ですからね。似た句が出来るわけですよ」と言っています。

ここを読んだときに、先日話題になった「全俳句データベース」を思わず思い出してしまいました。笑

確かに俳句は十七文字で、日本語のひらがな(というよりは「音韻」という方が適切かと思いますが)も限りがあるため、全て総当たりで並べれば、理論上全ての俳句をデータベースに収めることができます。この発想が個人的には面白かったです。笑

もちろんマア坊の句も既に収録されています(俳句No.67909320003680100167632211658803だそうです笑)。

今回は完全に雑談のつれづれとなりましたが、お疲れ様でした!

この年の他の大問の解説

役に立ったらお友達にシェアしてね
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次