東京大学 国語2022[三]解答例と解説

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総評

課題文や解答欄は比較的短めですし、なんとなくこんなことを言ってるんだろうな〜というのはわかる課題文でしたが、いざ解答を作るとなると、漢字一文字一文字まで気が抜けない読解でした。どのような答え方をするのかの根拠が「之」の一文字にあったり、厳密に比喩関係を捉え続けないといけなかったりで、相当頭を使う大問です。やっぱ東大の個別試験はむじぃや。

解答例と解説

(一)

a 馬を威圧するやり方
c 国民はますます使えなくなる
d 威圧はないといけないが

a 意外と難しいんじゃねって思います。「所以」をどう訳すかですが、「訳、理由、ことの次第」みたいな感じか、「方法、ハウツー」みたいな感じかでしょうか。はじめ、前者の意味から「馬を威圧するため(理由)」みたいな感じかなと思ったんですが、直前が「造父」なので、この傍線部は名詞句でないとおかしいんだなと気づきました。動詞句や副詞句とすると「之」が入らないはずなので。傍線部の後は「此(宋人の馬を威圧する態度≒やり方)に過ぎず」なので、「やり方」にしました。

c 直訳すると「民はますます用いられない」ですが、その後の一文「亡国の王、多威を以て其の民を使うこと多し」なので、ここの「用いる」も「王が民を用いる」ということでしょう。民は逆に言えば「用いられる」わけです。「国民は使われなくなる」ではなく「使いものにならなくなる」という方向にしました。

d 参考にしている解説では、「威は有る無かるべからずして」と書き下しています。なんかあんまり見ない書き下しですね。「有らないことはできない」なので、「有る必要がある、無いといけない」です。私も書き下しはできませんでしたが、どうせこういうことやろって推測しました。

部分点

a 馬を〈威圧する〉〈やり方〉
c 国民は〈ますます〉〈使えなくなる〉
d 威圧は〈ないといけないが〉

全体を通して、「威」をどう訳すかですが、私は「威圧」としています。「威嚇」「威力」とかでもいいと思います。後半は君主の話になりますので、「権威」でもいいのかなと思っていましたが、権威は少しプラスのイメージも纏いますので、ちょ〜っとズレる気もしました。

(二)

愚かな君主は、馬を操る道理を知らずに威圧で馬を制御しようとする宋の人のようなところがある。

「此」が前段落の最後の一文を受けていることはお分かりかと思いますが、「人主の不肖なる」が「此に似たる有り」なので、「此」の指示内容も「〜な宋の人(に似ているところがある)」とすると良さそうです。ただ、前段落の最後の一文は、前段落の内容をまとめているので、少し抽象的な物言いになっています(「造父の馬を操る道理を心得ないで、ただ威圧ばかりしていても、馬を制御するのに益はない」)。ので、この内容をそのまま「此」に入れるのではなく、この内容を受けた「宋の人」までを「此」に入れると一番スムーズかと。

部分点

〈愚かな君主〉は、〈馬を操る道理を知らずに〉〈威圧で馬を制御しようとする〉〈宋の人のようなところがある〉。

「不肖」をどう訳すかは難しかったです。「出来が悪い」とかでもいいんでしょうか。

(三)

料理で塩を使う際も適する拠り所があるように、威圧にも愛と利の心という拠り所があるということ。

結構むずい! 「威」が「塩」に喩えられていることは明らかですが、どう喩えられているのか、なんとなくはわかるけど言葉にするのが難しい。当初の私は「場合と量」の話(塩を合わない素材に使ったり、多過ぎたりしたらまずくなる)なのかなと思っていたのですが、厳密には多少違うようです。というのも、まぁ「場合」の話ではあるんだけど「量」の話はここではしていないかと。

「凡そ塩の用は、託するところ有り。適せざれば則ち託を敗りて食らふべからず」は、「そもそも塩の用途は相手によるところがある。合わなかったら相手をめちゃくそにしちゃって食べられない」なので、「場合が大事」は合ってます。でもこれ厳密に言えば「場合」ってか、「塩の媒体として合う食材(料理)があることが大事」って感じです。

これと同様に「威」を使う場合も、「威」を振りかけるのに合う食材があって初めて美味しい為政ができるってことですね。その食材、つまり「威を託する所」というのが「愛と利」なわけです。愛と利という、「威」に合うベース食材があって、そこに「威」を振りかけると、美味しい為政のできあがりってことですね。料理番組みたい。

部分点

〈料理で塩を使う際も〉〈適する拠り所がある〉ように、〈威圧にも〉〈愛と利の心という拠り所がある〉ということ。

「塩」と「威」の比喩関係が明示できていれば最低限はOKですが、それぞれの比喩の要点が捉えられていないと多分三分の一も点はもらえないかもです。書き方が非常に難しいですね……。

(四)

民へ慈愛や利を供する心を忘れ、激しい威圧で国を治めようとしたから。

本大問中では比較的難しくないです。「威」は適切なやり方で使えていなかったり、「愛と利」をベースとしていなかったりする場合は「御に益無し」でした。「愛利の心息みて、徒だ疾しく威を行へば、身必ず咎あり」をそのまま持ってこれればまぁ大丈夫でしょう。

部分点

民へ〈慈愛や利を供する心〉を忘れ、〈激しい威圧〉で〈国を治めようとした〉から。

「愛利の心」をどう訳すかは多少の工夫が必要かと思います。私も、「愛」は「慈愛」としやすかったのですが、「利」はどうしたもんかと思いました。最初は「利他」としていましたが、「君主が民に利を与えようとする心」という感じで、「利他」ではないかな〜と思ったので「民へ利を供する心」としてみました。これもまた語彙力。

読解後のつれづれ

私は京大の過去問しかほとんど解いてこなかったので、二次試験に漢文があるってのはやっぱり多少新鮮ですね。

宋の人の馬への当たりがキツすぎて最初は笑ってしまいましたが、なんかゼルダの伝説を思い出しました。たとえゼルダでも馬を川に沈めない方がいいです。

また、塩の比喩は一度理解できれば言いたいことが分かりやすく伝わりそうな良い比喩ではあるのですが、ちょっと難しかったですね。私の好みでしかないですが、トマトに塩をかけると美味しいなと思い、「愛利の心」はトマトみたいなものか……と思っていました(トマト嫌いな人にとっては別のものですね)。

国語もやってると想像が膨らみます。では今回もお疲れ様でした!

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